【微分方程式の解法9】完全微分方程式

微分方程式の解法
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完全微分方程式と呼ばれる微分方程式の解き方について解説する。

この微分方程式は、式の形状が全微分となっていることを利用して簡単に解くことができる。

そのため実務的な解法の重点は、与えられた方程式が完全微分方程式であるかを判定する、または完全微分方程式になるように変換することにある。

定義

微分方程式

$$P(x,y)dx+Q(x,y)dy=0\tag{1}$$

の左辺がある関数 \(z=f(x,y)\) の全微分となっているとき、すなわち

$$P(x,y)dx+Q(x,y)dy=\frac{\partial f}{\partial x}dx+\frac{\partial f}{\partial y}dy=df(x,y)\tag{2}$$

が成り立っているとき、この方程式を完全微分方程式または完全微分形という。

解法

完全微分方程式の一般解

\((2)\) の関係性より、完全微分方程式の一般解は、任意定数 \(C\) を用いて

$$f(x,y)=C$$

となる。ここで \(\frac{\partial f}{\partial x}=P\) より

$$f(x,y)=\int Pdx+g(y)$$

と書ける。さらに \(\frac{\partial f}{\partial y}=Q\) より

$$\frac{\partial}{\partial y}\int Pdx+g'(y)=Q$$

$$g'(y)=Q-\frac{\partial}{\partial y}\int Pdx$$

より、両辺を積分して \(g(y)\) を求める。

以上より、一般解は

$$f(x,y)=\int Pdx+g(y)=C$$

である。

完全微分方程式の判定法

\((1)\) が完全微分方程式となるための必要十分条件は

$$\frac{\partial P}{\partial y}=\frac{\partial Q}{\partial x}$$

である。

完全微分方程式でない場合

\((1)\) が完全微分方程式ではない(上記の条件を満たさない)場合、両辺に積分因数と呼ばれる関数 \(\lambda(x,y)\) を両辺に掛けて

$$\lambda(x,y)P(x,y)dx+\lambda(x,y)Q(x,y)dy=0$$

を完全微分方程式にすることができる。

一般に \(x,y\) の関数である積分因数 \(\lambda(x,y)\) を求めるのは困難だが、以下の条件をみたすときには積分因数が \(x\) または \(y\) のみの関数となり、比較的容易に求めることができる。

  • \(\frac{Q_x-P_y}{Q}\) が \(x\) のみの関数
    • \(\lambda(x)=\exp\left(\int\frac{P_y-Q_x}{Q}dx\right)\)
  • \(\frac{Q_x-P_y}{P}\) が \(y\) のみの関数
    • \(\lambda(y)=\exp\left(\int\frac{Q_x-P_y}{P}dx\right)\)

ここで \(A_b\) は \(\frac{\partial A}{\partial b}\) を意味する。

例題

$$(y+\ln x)dx+x\ln xdy=0\tag{3}$$

ここで \(\ln\) は自然対数である。

\(P=y+\ln x, Q=x\ln x\) と置くと

$$\frac{\partial P}{\partial y}=1$$

$$\frac{\partial Q}{\partial x}=\ln x+1$$

より、 \(\frac{\partial P}{\partial y}\neq\frac{\partial Q}{\partial x}\) なので、 \((3)\) は完全微分方程式ではない。

$$\frac{Q_x-P_y}{Q}=\frac{\ln x}{x\ln x}=\frac{1}{x}$$

より、 \(x\) のみの関数となっているため、積分因数は

$$\lambda(x)=\exp\left(\int-\frac{1}{x}dx\right)=\exp(-\ln x)=\frac{1}{x}$$

となる。よって積分因数を \((3)\) の両辺に掛け、完全微分方程式

$$\left(\frac{y}{x}+\frac{\ln x}{x}\right)dx+\ln xdy=0$$

が得られる。任意定数 \(C\) を用いて一般解を \(f(x,y)=C\) とおくと、 \(\frac{\partial f}{\partial x}=\frac{y}{x}+\frac{\ln x}{x}\) より

$$f(x,y)=\int{\left(\frac{y}{x}+\frac{\ln x}{x}\right)}dx+g(y)$$

となる。ここで、部分積分

部分積分の導出
概要 部分積分の公式が永遠に覚えられないので、合成関数の微分公式から導出してしまおうという話です。 公式 部分積分 $$\int f(x)g(x)dx=F(x)g(x)-\int F(x)g'(x)dx$$ ただし、 \(f(x)=F'(x...

を用いると

$$\int{\frac{\ln x}{x}}dx=(\ln x)^2-\int{\frac{\ln x}{x}}dx$$

$$2\int{\frac{\ln x}{x}}dx=(\ln x)^2$$

$$\int{\frac{\ln x}{x}}dx=\frac{1}{2}(\ln x)^2$$

より

$$f(x,y)=y\ln x+\frac{1}{2}(\ln x)^2+g(y)$$

また、 \(\frac{\partial f}{\partial y}=\ln x\) より

$$\frac{\partial f}{\partial y}=\ln x+g'(y)=\ln x$$

よって \(g'(y)=0\) 。すなわち \(g(y)=C_1\) ( \(C_1\) は任意定数)。

以上より、一般解は

$$y\ln x+\frac{1}{2}(\ln x)^2=C$$

このとき、 \(C_1\) を \(C\) に吸収させた。

微分方程式の解法一覧

その他の微分方程式の解法は、以下の記事を参照のこと。

【全9パターン網羅】微分方程式の解法一覧
微分方程式を形状ごとに分類し、それぞれの解法を解説しています。解法の基本は変数分離形または定数係数の線形の微分方程式にあり、より複雑な微分方程式は、これらのパターンに帰着させることを目標にしていると考えると、全パターンを簡単に覚えることができます。

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