筆者は2021年の統計検定1級合格者(統計数理・統計応用(医薬生物学))です。
試験勉強を始めた当初、私には統計学のバックグラウンドはほぼありませんでした。
しかし、試験問題の傾向から見えた2つの考え方を軸に対策を練り、7つのステップを達成するように勉強を進めたことで、無事一発合格を勝ち取ることができました。
この記事では、その2つの考え方と7つ(+1つ)のステップについて、実際に使用した教材と合わせて紹介します。
なお、この手の記事でよくある「必要な勉強時間」については、後述する理由によって取り扱いません。
前提知識
統計検定1級の試験の流れについては、公式サイトで把握しておいてください。
たとえば統計検定1級では「統計数理」と「統計応用」の2科目に合格する必要があり、うち統計応用は「人文科学」「社会科学」「理工学」「医薬生物学」の中から受験分野を1つ選択するという特殊なシステムになっているので注意してください。
戦略としての、2つの考え方
統計検定1級に合格するためには、次の2つのことが必要です。
- 過去問に出てくる用語の意味がわかる
- 苦手意識を持たずに積分ができる
以下でこれらの詳細を解説します。
統計検定の公式サイトには昨年分の過去問が掲載されているので、これを見ながら本記事を読み進めてください。
用語の意味の重要性
「問題が解けない」の意味
1.は、すべての試験について言えることですが、特に統計検定では専門用語が多いので、「解けない」の理由の大半を「言葉の意味がわからない」が占めます。
あなたがまだ勉強をはじめて間もない場合、過去問を見ると、結構な数の知らない用語が問題文に書かれていると思います。
問題文の意味が分からなければ、解法を思いつくはずがないので、用語の意味は勉強の初期に確実に押さえておくべきです。
「知らない」よりも酷い目にあう「誤解」
言葉の意味を「知らない」の他に、「誤解している」「不正確に覚えている」パターンも多いです。
例えばあなたは、確率密度関数 \(p(x)\) がなぜ密度なのかを正確に説明できるでしょうか?
または、 \(x\) に適当な値を代入して \(p(a)=b\) のような関係が得られた場合、この値の意味は何でしょうか?
(答えを言うと、これ単体ではほぼ意味がないと思った方が良いです)以上の内容に正確に答えられなかった場合、例えば
確率質量関数と確率密度関数を正確に、そして直観的に理解する確率論で用いられる確率質量関数と確率密度関数について、確率変数の定義から出発して、実例や用途に基づいて直観的に解説する。これらの用語は非常に誤解しやすいが、この記事を読むことで、それぞれの正確な意味を押さえ、関連する性質や定理についての理解...のように、艮電算術研究所の解説記事を参考にしてみてください。
用語を正確に把握できれば、それにまつわる性質や定理も理解しやすくなります。
逆にいつまでたっても内容を理解できないときは、それに関する用語を誤解している場合が多いです。
統計検定1級は積分力検定
1級は「作る」ための試験
2.は統計検定というか、統計検定1級に特異的な内容です。
個人的な肌感覚として、要求される統計の知識量は統計検定1級よりも準1級の方が多いと思います。
それなのに、なぜ1級の方が上位に位置づけられているのかというと、準1級までは統計手法を「使う」ための検定であるのに対し、1級は「作る」「導出する」ことに重きを置いているからです。
実際に過去問に目を通すと、「表せ」「説明せよ」「示せ」などの設問が多く、その解答のために積分が必要になる場合が多いことに気が付きます。
統計学における積分の重要性
なぜ積分が必要なのか?
それは統計の軸になる確率が
$$確率=\frac{条件をみたすケースの和}{すべてのケースの和}$$
という基本構造を持っており、この和を発展させたものが積分になるため、統計学と積分は切っても切り離せない関係になるのです。
積分を苦手にしない方法は、「雑に」計算すること
正直筆者も、積分はかなり難しい部類の計算に入ると思っています。
覚えるべき公式というかテクニックが多く感じ、単に「微分の逆」をやればOKというわけではないところが憎いです。
しかし筆者は、積分を攻略するためのコツとして「積分に苦手意識を持たない」ことが重要であると考えていまう。
もっと言うと、「積分はさほど複雑ではないので、多少雑に計算してもOK」くらいの気持ちを持つと良いです。
「本当にこんな計算が許されるのか…?」というオレオレ計算でも、普段からとりあえずやってみるイメージです。
というのも、「積分が苦手な人」は、たいてい次のステップで形成されるからです。
- 式が多少複雑な積分計算に出会う
- 「見たことのないパターンだから解き方をおぼえなきゃ」と思う
- 計算を諦めて解答・解説を確認する
- 「なるほど~」と言う(←試験勉強における最も危険なサイン)
- 次の問題に進む
- 1.に戻る
ここで指摘すべきは次の2点です。
- 「パターン」でキレイに解ける問題ばかりではない
- 「何をすべきか」を覚えるより「何をしてはいけないか」を覚えた方が良い
そのため、毎回汚くてもよいので自力で計算して(たまには無理筋なシン・計算法も生み出して)みて、そのうえで解答を見て、計算手順の間違いを確認することが大切です。
先程「単に『微分の逆』をやれば良いわけではない」という表現を使いましたが、とはいえ積分の基本は微分の逆なので、それを雑にやってみると良いです。
ただし、その際に(直感と反するかもしれないが)やってはいけないことがいくつかあるだけなのです。
戦術としての、7つ(+1つ)の勉強ステップ
以上の2つの戦略目標を達成するために、筆者は次の7つ(+1つ)のステップで勉強を進めました。
- 過去問を買い漁る
- 過去問をざっと見て、わからない用語をメモする
- 教科書を用意し、目次と索引を見て、メモした用語を登場ページの順番に並べる
- メモした用語に注目して教科書を読む
- 教科書に登場しない用語を調べる
- 過去問の(1)は解けるように、(2)以降は解答を理解できるようにする
- 出題年ごとに数問、完答できる問題を作る
- (余裕があれば、問題集を解く)
ここからわかる通り、5/7ステップは用語の理解のために時間を費やします。
以下、実際に使用した教材を交えて1つずつ解説します。
過去問を買い漁る
「試験特化の勉強をしないため」にも過去問は重要
試験勉強の基本は過去問です。教科書ではありません。
過去問の量が勉強の質を左右します。
これは「試験にさえ通ればOKだから」ではなく、「(未知の)学問分野において、重要とされている部分を把握するため」です。
教科書は基本的に、学問分野内のすべての内容について、平等の重み付けで解説しています。
つまり、「めったに使わないが厳密には押さえて置くべき定理」やそれを導出するために「一応定義する必要がある概念」を、「超絶よく使う便利な定理」と等価にページを割いているのですが、素人にそれを判別する能力はありません。
前者に時間をかけすぎて後者に到達できない、というような大失敗を避けるため、ここは謙虚に分野の作法を学んでいきましょう。
そのために過去問が重要となります。
なぜならば、分野において重要とされている内容は、問題としてもよく扱われ、その結果出題頻度が偏るためです。
そして、統計的に有意な偏りを見出すためには、より多くの過去問を集める必要があるのです。
公式問題集を用意するのが安定
統計検定の場合、以下のような日本統計学会公式解説付きの問題集が発売されています。
(「1級+準1級」だったのが「1級だけ」になった影響か、2019年だけ被っている)
この本には「統計数理」と「統計応用」のすべての分野の過去問題と、それらの公式解答・解説が載っています。
公式の解答ですので、問題に対する見解間違いがなく、実際の採点基準に沿った解答例を確認できるところがこの本の強みです。
こちらを書店なりAmazonなりブックオフなりで、可能な限り集めましょう。
または、過去に統計検定を受験した友達からもらうというのも手です。
過去の問題文から、わからない用語を把握
過去問を用意したら、とにかく問題文に目を通します。
そして、知らない・説明できるか自信がない用語をひたすらメモしていきます。
このときに重要なのは謙虚さです。
たぶんこの時点で問題文をほとんど理解できないと思いますが、メモした用語を調べ終わった後には「読める、読めるぞ!」と、きれいなムスカ状態になっていると思うので、乞う御期待。
教科書の目次と索引を確認
使用した教科書の紹介
すべての過去問を見て攻略目標を把握したら、やっと教科書を用意します。
私は「久保川:現代数理統計学の基礎」を使用しました。
この本を読むことで、「統計数理」分野で出題されるほぼすべての内容について、理論を知ることができます。
ただしこの本は結構難しいので、通読するのにも時間がかかります(※非数学畑出身の感想です)。
よって、後述する方法で拾い読みします。
「統計応用」分野の勉強のためには、日本統計学会の公式解説書が参考になりました。
とはいえ、この本の半分は「統計数理」で、残りの半分を「統計応用」の各分野で分けることになるので、あなたが選択する統計応用分野の解説は全体の1/10程度の分量です。
そのため、統計応用分野の用語はとりあえずインターネットで調べ、本屋で立ち読みしている時に参考になりそうな本があったら買う、くらいの気持ちでも良いと思います。
なお、他にも統計検定1級に対応した教科書はあるらしいですが、私はこれら2つしか使っていないので、知り得ぬものには沈黙します。
目次と索引で分野の流れを把握する
教科書を用意したら、本文を読む前に目次と索引に目を通します。
そして、自分が過去問からメモした用語がどこにあるかを確認し、用語を登場ページ順に並び替えてください。
この順番こそが、統計学の分野としての流れです。
そしてこのときに重要なのが、目次に登場した用語です。
つまりタイトルを張れる用語ですから、分野においても超重要だということです。
メモした用語に注目して教科書を読む
注目すべき用語を洗い出したら、それらの用語に関係する章・節を中心に本文を読んでいきます。
ただし、このステップでは、読む作業にはあまり時間を割かず、可能な限り早く過去問演習に移りたい、という気持ちでいると良いでしょう。
なぜならば、教科書を「読む」という行為自体では内容はほとんど頭に入らず、使える知識は実践(過去問演習)でのみ獲得できるからです。
よってここでは、注目すべき用語について50~70%、それ以外について20~40%の理解度があれば十分です。
実践の途中で忘れてしまった内容があれば、また教科書に戻って来れば良いのです。
教科書に登場しない用語を調べる
教科書に登場しない用語はGoogle検索等で調べましょう。
また、艮電算術研究所では対策記事集を掲載しているので、是非参考にしてください。

艮電算術研究所では、あなたからのリクエストも募集しています。
解説してほしい用語や内容があれば、お問い合わせフォームから是非お知らせください!
お問い合わせ艮電算術研究所のお問い合わせページです。当サイトに関するご意見・ご感想や、記事のリクエストについて、お気軽にご連絡ください!
このステップでも50%程度の理解度があれば十分です。
(1)は解く、(2)以降は理解する
ここからが本番、過去問演習に入ります。
試験本番での作戦としては、合格ボーダーも考慮して以下のように考えます。
- すべての大問の(1)は解く
- 行けそうな大問があれば完答を目指す
少々弱気な作戦に見えるかもしれませんが、実際この程度解答できていれば合格は可能です。
そして、ここでは可能な限り多くの問題に目を通し、完全に「手がつけられない」となる問題を作らないことを目標とします。
つまり、浅く・広くがテーマです。
そのためには、各大問の(1)は何も見ずに解けるように、(2)以降は解答を読めば理解できる程度に過去問演習を繰り返すのがちょうど良い塩梅となります。
ただし、積分の計算については解答を読むだけでなく、実際に手を動かしてみることを勧めます。
この時点で「わからない」となることがあれば、まず用語の理解不足や誤解を疑ってください。
その場合は再び教科書を参照したり、オンラインの記事を検索したりして、用語の理解固めを行いましょう。
完答できる問題を作る
すべての大問の(1)だけを解答しても合格ラインには達しないので、いくつかの問題は完答またはそれに近いところまで持っていく必要があります。
そのためには、完答に至るための武器をいくつか用意しておくと良いでしょう。
たとえばデルタ法は強力な武器のひとつです。

これは漸近分散を求める際に使用する定理ですが、
- (1) 統計量を設計せよ
- (2) 中心極限定理で、それを正規分布に近似せよ
- (3) 漸近分散を求めよ
という流れでよく出題されます。
このように、大問の最終設問付近でよく用いられる定理をいくつか把握しておくことで、完答率を高めることができます。
(余裕があれば、問題集を解く)
集めた過去問の演習は十分に完了した、もう手元に問題がない…という場合に限り、一般的な問題集を用意して演習を行うことを勧めます。
筆者は以下の本を使用しました。
この本では、主に「数理統計」分野の問題を、チャート式で掲載しています。
つまり、ページの上部に問題、その下に解答が載っているので、問題とその解き方を一気に見ていくのに便利です。
とはいえ筆者は試験直前まで過去問演習に時間を費やしたので、こちらの本はほとんど使用していません。
よって自分ができていないことは勧めないの精神で括弧書きの補足ステップとしました。
必要な勉強時間は、本当に人による
統計検定に限ったことではありませんが、よく、「この資格取得のためには◯◯時間の勉強が必要です」という表現を見かけます。
ざっと調べたところ、統計検定1級合格のためには、数百時間の勉強が必要らしいです。
とはいえ、基本的に試験というものは、やるべきことができていれば合格し、そうでなければ落ちます。
上記の7つのステップを達成できているか否かが、合否を分けると言って良いでしょう。
そのためにどのくらい時間がかかるかは、4つ目のステップに取り組んでいるあたりで、自分で大体把握できると思います。
試験は「早く合格したら勝ちゲーム」ではなく、試験勉強を通して資格に相当する知識を身につけることが究極の目標なので、マイペースで実力を磨いていくのが王道であり、最強なのです。
記事内容募集中!
艮電算術研究所では、今後も統計分野の記事を追加・更新していく予定です。
とはいえ、書きたいテーマについてストックがそれほどあるわけでもないため、あなたからのリクエストがあれば(そして筆者に書けるだけの実力と時間があれば)、その内容を記事にしていきたいと考えています。
繰り返しになりますが、「◯◯について解説してほしい」「この記事のここがわかりにくいので追記してほしい」等のご意見があれば、お問い合わせフォームより、ご意見をどしどしお寄せください。

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