ケーリー変換の使い方とその証明

数学
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ケーリー変換(Cayley Transform)とは、エルミート行列を用いてユニタリ行列を生成するための手法です。

この記事では、まず、これら複素行列の定義や性質について解説します。

その後、ケーリー変換の使い方を説明し、それが成り立つことの証明を行います

複素行列の性質

随伴(共役転置)

行列を転置し、各成分について複素共役をとる作業を随伴または共役転置といいます。

一般に、行列 \({\bf A}\) の随伴を

$${\bf A}^{\dagger}$$

と書き、 \({\bf A}, {\bf B}\) を \(m\times n\) の複素行列、 \(c\) を複素数とすると、以下の性質が成り立ちます。

  1. $$(c{\bf A})^{\dagger}=c^*{\bf A}^{\dagger}$$
  2. $$({\bf A}+{\bf B})^{\dagger}={\bf A}^{\dagger}+{\bf B}^{\dagger}$$
  3. $$({\bf A}{\bf B})^{\dagger}={\bf B}^{\dagger}{\bf A}^{\dagger}$$
  4. $${\bf A}が正則\Leftrightarrow {\bf A}^{\dagger}が正則$$
  5. $$4.のとき、({\bf A}^{-1})^{\dagger}=({\bf A}^{\dagger})^{-1}$$

ここで、 \(c^*\) は \(c\) の複素共役を表します。

エルミート行列

随伴をとっても形が変わらない行列をエルミート行列といいます。

つまり、エルミート行列 \({\bf H}\) について

$${\bf H}={\bf H}^{\dagger}$$

が成り立ちます。

さらに、随伴の性質より、

$$(i{\bf H})^{\dagger}=i^*{\bf H}^{\dagger}=-i{\bf H} \tag{1}$$

の関係が導けます。

ユニタリ行列

自身とその随伴行列の積が単位行列になる行列をユニタリ行列といいます。

つまり、ユニタリ行列 \({\bf U}\) について

$${\bf U}^{\dagger}{\bf U}={\bf U}{\bf U}^{\dagger}={\bf I}$$

が成り立ちます( \({\bf I}\) は単位行列)。

この定義より、ユニタリ行列の随伴は逆行列に一致します。

$${\bf U}^{\dagger}={\bf U}^{-1}$$

ケーリー変換

ケーリー変換の使い方

ケーリー変換は、エルミート行列からユニタリ行列を生成するために使用します。

具体的には、エルミート行列 \({\bf H}\) について \(({\bf I}-i{\bf H})\) が正則となるとき

$${\bf U}:=({\bf I}+i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})^{-1}\tag{2}$$

と行列 \({\bf U}\) を定義すると、 \({\bf U}\) はユニタリ行列になります。

ケーリー変換の証明

\(i{\bf H}\) はエルミート行列です。

そして、単位行列(対角行列)からそれを引いた \(({\bf I}-i{\bf H})\) もエルミート行列です。

また、随伴の性質2.と式 \((1)\) を用いると

$$({\bf I}-i{\bf H})^{\dagger}={\bf I}^{\dagger}-(i{\bf H})^{\dagger}={\bf I}+i{\bf H}$$

であることがわかります。

つまり、随伴の性質3.より、 \(({\bf I}+i{\bf H})\) も正則です。

以上をふまえて、式 \((2)\) より、 \({\bf U}\) の随伴を計算すると

$${\bf U}^{\dagger}=\{({\bf I}+i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})^{-1}\}^{\dagger}$$

$$=\{({\bf I}-i{\bf H})^{-1}\}^{\dagger}({\bf I}+i{\bf H})^{\dagger}$$

$$=\{({\bf I}-i{\bf H})^{\dagger}\}^{-1}({\bf I}+i{\bf H})^{\dagger}$$

$$=({\bf I}+i{\bf H})^{-1}({\bf I}-i{\bf H})$$

となります(2行目→3行目の変換で、随伴の性質5.を使用しました)。

このことから、以下の関係式が導けます。

$${\bf U}^{\dagger}{\bf U}=({\bf I}+i{\bf H})^{-1}({\bf I}-i{\bf H})({\bf I}+i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})^{-1}$$

ここで、

$$({\bf I}-i{\bf H})({\bf I}+i{\bf H})={\bf I}-i{\bf H}+i{\bf H}-i{\bf H}i{\bf H}$$

$$={\bf I}+i{\bf H}-i{\bf H}+i{\bf H}(-i{\bf H})=({\bf I}+i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})$$

と計算順序を入れ替えることができるので

$${\bf U}^{\dagger}{\bf U}=({\bf I}+i{\bf H})^{-1}({\bf I}+i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})({\bf I}-i{\bf H})^{-1}=1$$

となります。

よって

$${\bf U}^{\dagger}={\bf U}^{-1}$$

が成り立つので、 \({\bf U}\) はユニタリ行列です。

参考文献

  1. 中原幹夫「量子物理学のための線形代数 =ベクトルから量子情報へ」(2016)培風館.
    • p.23 問 2.3 参照。記号の用法は全てこの本に従った。
  2. 随伴行列 - Wikipedia(2018年9月2日07:30閲覧)

Comments

  1. yoshi より:

    1+iHが正則行列であることを証明しないといけないと思います.

  2. ご指摘いただきありがとうございます!
    (1+iH)=(1-iH)^†より、性質4.からこれも正則になります。
    証明としては確かに抜けがありましたので、本文に追加しました。