上極限集合と下極限集合を定義し、ボレル・カンテリの補題を導きます。
これらは式にすると複雑に見えますが、ことばで表現すると簡単に理解することができます。
とくにボレル・カンテリの補題は、無限回の試行に対する確率について、私たちの直観にあう解釈を成り立たせるための、基礎的な条件を述べたものに過ぎません。
上極限集合と下極限集合
定義
\(A_{1}, A_{2}, \dots\) を集合の列とします。
このとき、上極限集合
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}=\bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}$$
と、下極限集合
$$\liminf_{n\to\infty} A_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}$$
を定義することができます。
数式による解釈
定義式の各パーツについて、条件式を用いて書き直します。
上極限集合
$$\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}=\{x\mid\exists l\geq n \quad x\in A_{l}\}$$
と書けるので、上極限集合の定義式は
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}=\bigcap_{n=1}^{\infty}\{x\mid\exists l\geq n \quad x\in A_{l}\}$$
$$=\{x\mid\forall m\quad x\in\{x\mid\exists l\geq m \quad x\in A_{l}\}\}$$
$$=\{x\mid\forall m\quad\exists l\geq m \quad x\in A_{l}\}$$
とあらわすことができます。
下極限集合
$$\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}=\{x\mid\forall l\geq n \quad x\in A_{l}\}$$
と書けるので、下極限集合の定義式は
$$\liminf_{n\to\infty} A_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}\{x\mid\forall l\geq n \quad x\in A_{l}\}$$
$$=\{x\mid\exists m\quad x\in\{x\mid\forall l\geq m \quad x\in A_{l}\}\}$$
$$=\{x\mid\exists m\quad\forall l\geq m \quad x\in A_{l}\}$$
とあらわすことができます。
ことばによる解釈
上極限集合
条件式の意味を考えると、上極限集合は
どんな \(m\) を取ってきても、それ以上の \(l\) が存在し、 \(x\) が \(A_{l}\) に含まれる
すなわち
\(m\) 以上のところに、必ず \(x\) を含む集合 \(A_{l}\) が存在する
という \(x\) の集合を指します。
したがって、上極限集合の元 \(x\) は無限個の \(A_{k}\) に含まれます。
下極限集合
同様に条件式の意味を考えると、下極限集合は
とある \(m\) 以上のすべての \(l\) について、 \(x\) が \(A_{l}\) に含まれる
という元 \(x\) の集合を指します。
これは裏返して言えば
\(x\) を含まない集合は最大でも \(A_{m}\) まで
ということです。
したがって、下極限集合の元 \(x\) を含まない \(A_{k}\) の数は有限個ということになります。
例
集合の列 \(A_{1},A_{2},\dots\) を、上極限集合または下極限集合の元 \(x\) にもとづいて
- \(x\in A_{k}\) のとき、 \(A_{k}\to T\)
- \(x\notin A_{k}\) のとき、 \(A_{k}\to F\)
と置き換えることにします。
上極限集合
\(x\) が上極限集合の元のとき、集合の列は
$$TFFTFTT\cdots FFT\cdots FT\cdots$$
のようになります。
つまり、集合の列において、あるところから急にTが出なくなるということはありません。
下極限集合
\(x\) が下極限集合の元のとき、集合の列は
$$TFFTFTT\cdots TTT\cdots TT\cdots$$
のようになります。
つまり、あるところから急にTしか出なくなります。
性質
前節の例で見た通り、上極限集合の元が満たすべき条件は、下極限集合の元のそれよりも緩くなります。
したがって、
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}\supset\liminf_{n\to\infty} A_{n}$$
の関係が成り立ちます。
上極限集合と下極限集合が一致するとき、集合列は収束すると言い
$$\lim_{n\to\infty}A_{n}$$
と書くことがあります。
集合列が収束する例(単調増大列と単調減少列)
集合の列 \(A_{k}\in\mathfrak{B}, k=1,2,\dots\) において、
すべての \(k\) について \(A_{k}\subset A_{k+1}\) が成り立つとき、 \(A_{k}\) は単調増大列であるといい、
逆にすべての \(k\) について \(A_{k}\supset A_{k+1}\) が成り立つとき、 \(A_{k}\) は単調減少列であるといいます。
上極限集合・下極限集合については、以下の記事でくわしく解説しています。
\(A_{k}\) が単調増大列のとき、以下が成り立ちます。
$$すべてのm\geq 1について、\bigcup_{k=m}^{\infty}A_{k}は等しい\tag{1}$$
$$\bigcap_{k=m}^{\infty}A_{k}=A_{m}\tag{2}$$
これらを用いると、上極限集合と下極限集合はそれぞれ
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}=\bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}\quad(\because(1))$$
$$\liminf_{n\to\infty} A_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}\quad(\because(2))$$
と表すことができ、互いに等しくなります。
したがって、集合列は収束し
$$\limsup_{n\to\infty}A_{n}=\liminf_{n\to\infty}A_{n}=\lim_{n\to\infty}A_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}\tag{3}$$
が成り立ちます。
\(A_{k}\) が単調減少列のとき、
\(A_{k}\) の補集合の列 \(A_{k}^{c}\) について \(A_{k}^{c}\supset A_{k+1}^{c}\) が成り立ち、単調増大列となります。
$$\limsup_{n\to\infty}A_{n}^{c}=\liminf_{n\to\infty}A_{n}^{c}=\lim_{n\to\infty}A_{n}^{c}=\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}^{c}$$
補集合の列が収束するので、単調減少列も収束し
$$\limsup_{n\to\infty}A_{n}=\liminf_{n\to\infty}A_{n}=\lim_{n\to\infty}A_{n}$$
$$=\left(\lim_{n\to\infty}A_{n}^{c}\right)^{c}=\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_{n}^{c}\right)^{c}=\bigcap_{n=1}^{\infty}A_{n}\tag{4}$$
が成り立ちます。
まとめ
上極限集合:「無限個の \(A_{k}\) に含まれる元の集合」
下極限集合:「それを含まない \(A_{k}\) が有限個である元の集合」
ボレル・カンテリの補題
上極限集合と下極限集合の確率について考えると、以下の補題が成り立ちます。
補題
\(\mathfrak{B}\) を可測集合族(確率を定義した事象の集合。元 \(A\) は可測集合と呼ばれる)とする。
- 事象の列 \(A_{n}\in\mathfrak{B}, n=1,2,\dots\) に対して、 \(\sum_{n=1}^{\infty}P(A_{n})<\infty\) ならば、 \(P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=0\) となる。
- 事象 \(A_{1},A_{2},\dots,A_{n},\dots\in\mathfrak{B}\) が独立であるとき、 \(\sum_{n=1}^{\infty}P(A_{n})=\infty\) ならば、 \(P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=1\) が成り立つ。
意味
\(A_{n}\) は「サイコロを振って、 \(n\) 回目に \(1\) が出る」という事象であるとし、
事象列 \(A_{1},A_{2},\dots,\) を考えます。
前章の解釈より、この事象列の上極限は
サイコロを無限回( \(n\to\infty\) )振ると、 \(1\) が無限回出る
という当然の事象、下極限は
サイコロを無限回振ると、 \(1\) 以外が出る( \(2,3,4,5,6\) のどれかが出る)回数は有限回である
という有り得ない事象をそれぞれあらわします。
すると直感的に
$$P(\limsup_{n\to\infty} A_{n})=1$$
$$P(\liminf_{n\to\infty} A_{n})=0$$
となることが予想されますが、
これが実際に満たされるための十分条件を与えるのがボレル・カンテリの補題です。
証明
1.の証明
\(B_{n}=\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}\) とおくと、 \(B_{n}\) は単調減少列になります。
このとき、上極限集合の定義式は
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}=\bigcap_{n=1}^{\infty}B_{n}$$
と書けますが、式 \((4)\) により
$$\limsup_{n\to\infty} A_{n}=\bigcap_{n=1}^{\infty}B_{n}=\lim_{n\to\infty}B_{n}$$
が成り立ちます。
ここで、確率の連続性
$$P(\lim_{k\to\infty}A_{k})=\lim_{k\to\infty}P(A_{k})$$
により
$$P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=P(\lim_{n\to\infty}B_{n})=\lim_{n\to\infty}P(B_{n})=\lim_{n\to\infty}P\left(\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}\right)$$
となります。
確率の連続性についても、単調増加・減少列の記事でくわしく解説しています。
ここで、和事象の確率では一般的に
$$P\left(\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}\right)\leq\sum_{k=n}^{\infty}P(A_{k})$$
の関係が成り立ち、
\(\sum_{n=1}^{\infty}P(A_{n})<\infty\) のとき \(\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{\infty}P(A_{k})=0\) となることに注意して変形すると
$$P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=\lim_{n\to\infty}P\left(\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}\right)\leq\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{\infty}P(A_{k})=0$$
が導かれます。
和事象の確率の一般化については、以下の記事でくわしく解説しています。
2.の証明
一般に、
$$(\limsup_{n\to\infty}A_{n})^{c}=\liminf_{n\to\infty}A_{n}^{c}$$
すなわち
$$\left(\bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{k=n}^{\infty}A_{k}\right)^{c}=\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}$$
が成り立ちます。
$$P(A)=1\Leftrightarrow P(A^c)=0$$
より
$$P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=1$$
は
$$P\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}\right)=0$$
に等しいため、こちらを証明することにします。
$$P\left(\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}\right)=\lim_{m\to\infty}P\left(\bigcap_{k=n}^{m}A_{k}^{c}\right)=\lim_{m\to\infty}\prod_{k=n}^{m}P(A_{k}^{c})=\lim_{m\to\infty}\prod_{k=n}^{m}\left(1-P(A_{k})\right)$$
が成り立ちます。
ここで、 \(x\geq 0\) において常に \(1-x\leq e^{-x}\) より
$$\lim_{m\to\infty}\prod_{k=n}^{m}\left(1-P(A_{k})\right)\leq \lim_{m\to\infty}\prod_{k=n}^{m}\exp\left(-P(A_{k})\right)$$
$$=\lim_{m\to\infty}\exp\left(-\sum_{k=n}^{m}P(A_{k})\right)=0\quad(\because\quad 仮定)$$
がすべての \(n\geq 1\) について成り立ちます。
すなわち
$$P\left(\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}\right)=0$$
です。
ここで、
$$B_{n}=\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}$$
とおくと \(B_{n}\) は単調増大列になるので、 \((3)\) から
$$\lim_{n\to\infty}B_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}B_{n}=\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}$$
が成り立ちます。
したがって、
$$P\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}\right)=P\left(\lim_{n\to\infty}B_{n}\right)=\lim_{n\to\infty}P\left(B_{n}\right)$$
$$=\lim_{n\to\infty}P\left(\bigcap_{k=n}^{\infty}A_{k}^{c}\right)=0$$
が導かれます。
例
「意味」の節で述べたようなサイコロ投げの場合、事象 \(A_{1},A_{2},\dots,A_{n},\dots\in\mathfrak{B}\) は独立であり、
$$\sum_{n=1}^{\infty}P(A_{n})=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{6}=\infty$$
より、直感通り
$$P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=1$$
となります。
しかし、 \(P(A_{n})=\frac{1}{n^{2}}\) となるような事象を考えた場合、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=\frac{\pi^{2}}{6}<\infty\quad(\because\quad バーゼル問題)$$
より、
$$P(\limsup_{n\to\infty}A_{n})=0$$
となります。
すなわち、このような事象は無限回は起こり得ません。
参考文献
- 久保川達也「現代数理統計学の基礎(共立講座 数学の魅力11)」共立出版(2017)
- 佐藤坦「はじめての確率論 測度から確率へ」共立出版(1994)
- 極限集合の解釈(イプシロンデルタ風に) - 岡竜之介のブログ
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