ナシーム・ニコラス・タレブ:著、望月衛:訳
ブラック・スワン――[上]不確実性とリスクの本質
ブラック・スワン――[下]不確実性とリスクの本質
ダイヤモンド社 2009年
※当記事は全体の要約というより、政治学に応用可能と考えられる内容の抜粋である。
Terms
黒い白鳥(ブラック・スワン)
次の3つの特徴を備えた事象
- 異常であること(過去にその発生を明確に示唆する情報がないこと)
- とても大きな衝撃があること
- 異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること
人間の以下の傾向により、黒い白鳥は問題となりうる。
- 追認の誤り
- 自分の無知ではなくて知識を追認してくれるものを探す傾向
- 講釈の誤り
- もっともらしい説明や逸話で私たちが自分をごまかす傾向
- (情緒の介入)
- 私たちが推論を行うときに情緒が入り込む傾向
- 物言わぬ証拠の問題
- 歴史は生じた事象・生き残った存在しか記述しない、という傾向
月並みの国
ランダム性が弱く、極端な値を取りにくい変数の集合。身長・体重など、物理的制約を受けるもの(物理量)。正規分布に従う(極端な値の存在は、ほとんど無視できる)。
果ての国
ランダム性が高く、極端な値を取りやすい変数の集合。資産・シェアなど、物理的制約を受けないもの(情報量)。拡張可能な(極端な値の存在を否定しない)分布(べき乗則など)による理解が必要。
プラトン化
必要以上の単純化。
Contents
- 果ての国では黒い白鳥が生まれる可能性があり、実際生まれる。
- この世界では、データからわかったことはいつも疑ってかからないといけない。
- 果ての国の変数を、あたかも月並みの国の変数であるかのように扱うと、黒い白鳥に翻弄されることになる。
- 歴史的な事件を予測するには技術的進歩を予測する必要があり、技術進歩は本質的に予測できない。
- 反復期待値の強法則
- 将来のある時点で何か(黒い白鳥)を期待すると今期待するなら、その何かを今期待していることになる。
- 反復期待値の弱法則
- 予測ができるぐらい将来を理解するためには、その将来自体から来た要素を取り込まないといけない(将来どんな発見をすることになるかわかっているなら、もう発見したも同然)。
- 反復期待値の強法則
- 黒い白鳥のせいで、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつ、ほとんどの「リスク測度」には欠陥があると認めるなら、取るべき選択は、可能な限り超保守的かつ超積極的になる(バーベル戦略)ことである。
- 資産の85~90%をものすごく安全な資産に投資し、残りの10~15%はものすごく投機的な賭けに投じる。
- または15%以上の損失に保険を掛けるなどして、計算できないリスクを「刈り取る」。
- バーベル戦略を日常生活に一般化するために、以下のことを実行する。
- いい偶然と悪い偶然を区別する
- 不確実性のおかげでときどき報われる分野では、他の人は何もわかっておらず、さらにそのことに気付いていない状況で、自分は自分が何がわかっていないかを分かっているとき、1番うまくいく。
- 悪い偶然に対しては、被害妄想みたいな態度をとる
- 細かいことや局所的なことは見ない。
- 黒い白鳥を厳密に予測しようとはせず、備えることに資源を費やす。
- チャンスや、チャンスみたいに見えるものには片っ端から手を出す。
- 予測を信頼しない
- 予測に反論しない
- いい偶然と悪い偶然を区別する
- 稀な事象の起こる確率は計算できない(しなくていい)。事象が起こった場合のペイオフや恩恵に焦点を絞ればいい。
Impressions
予測の分野においては、技術発展が予測できないことを考えると、比較的近時の予測に止めておいた方がよいか。本書は「使えない」「後付けの」理論や予測を批判しており、それを除く必要があることについては当然同意。そうすると、予測の役割は「未来を厳密に当てる」ことではなく、「過学習を避け、理論を評価する」ことになりそう。そのとき、「すべてのデータを見て作った理論」と、「一部のデータのみを見て作り、他のデータも予測できた理論」の間に差はあるのか。
予測にも保険を掛けることはできないか。とても悲観的な予測をする(交える)機械学習のプログラムを作ることはできないか。確率的な予想を返すマシンに悲観的予測の項を交えることで、ブラック・スワンにもある程度対応することはできないか。
紛争の被害=果ての国である。ブラック・スワンを考慮するのはどこか。政策提言の段階?
確率と被害の掛け算(?)はこの本の内容を都合よく解釈しているかもしれない。
コメント
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