ブラックスワン理論について解説し、ナシーム・ニコラス・タレブ 著、望月衛 訳の「ブラック・スワン――不確実性とリスクの本質(上・下巻)」の内容を要約する。
この記事を読むことで、未来のリスクは基本的に予測不可能である理由がわかり、そのような世界で、リスクに対しどのような戦略をとれば良いかを理解できる。
ブラックスワン理論
黒い白鳥(ブラック・スワン)の条件
次の3つの特徴を備えた事象を、ブラック・スワンと呼ぶ。
- 異常であること(過去にその発生を明確に示唆する情報がないこと)
- とても大きな衝撃があること
- 異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること
なぜ黒い白鳥が問題となるのか?
人間の以下の傾向により、黒い白鳥は問題となりうる。
- 追認の誤り
- 自分の無知ではなくて知識を追認してくれるものを探す傾向
- 講釈の誤り
- もっともらしい説明や逸話で私たちが自分をごまかす傾向
- 情緒の介入
- 私たちが推論を行うときに情緒が入り込む傾向
- 物言わぬ証拠の問題
- 歴史は生じた事象・生き残った存在しか記述しない、という傾向
本書で扱われる表現
月並みの国
ランダム性が弱く、極端な値を取りにくい変数の集合。
身長・体重など、物理的制約を受けるもの(物理量)が多い。
これらの変数は正規分布に従うため、極端な値の存在は、ほとんど無視できる。
果ての国
ランダム性が高く、極端な値を取りやすい変数の集合。
資産・シェアなど、物理的制約を受けないもの(情報量)が多い。
拡張可能な(極端な値の存在を否定しない)分布(べき乗則など)による理解が必要となる。
プラトン化
事象を必要以上に単純化すること。
本文要約
黒い白鳥は果ての国で生まれる
果ての国では黒い白鳥が生まれる可能性があり、実際生まれる。
よって、以下のことに注意が必要である。
- この世界では、データからわかったことはいつも疑ってかからないといけない。
- 果ての国の変数を、あたかも月並みの国の変数であるかのように扱うと、黒い白鳥に翻弄されることになる。
事件の予測=技術的進歩の予測
歴史的な事件を予測するには技術的進歩を予測する必要があり、技術進歩は本質的に予測できない。
その理由として、以下の反復期待値の強法則・弱法則がある。
反復期待値の強法則
将来のある時点で何か(黒い白鳥)を期待すると今期待するなら、その何かを今期待していることになる。
「今は無理だけど、将来は大惨事を予想できる」?
どうして「今」そんな予測を立てられるんですか? 今は無理だって言ったのに。
反復期待値の弱法則
予測ができるぐらい将来を理解するためには、その将来自体から来た要素を取り込まないといけない。
将来どんな発見をすることになるかわかっているなら、もう発見したも同然では?
黒い白鳥にはバーベル戦略をとれ!
黒い白鳥のせいで、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつ、ほとんどの「リスク測度」には欠陥があると認めるなら、取るべき選択は、可能な限り超保守的かつ超積極的になる(バーベル戦略)ことである。
バーベル戦略とは?
- 資産の85~90%をものすごく安全な資産に投資し、残りの10~15%はものすごく投機的な賭けに投じる。
- または15%以上の損失に保険を掛けるなどして、計算できないリスクを「刈り取る」。
バーベル戦略を習慣化するためには?
バーベル戦略を日常生活に一般化するために、以下のことを実行する。
いい偶然と悪い偶然を区別する
不確実性のおかげでときどき報われる分野では、
- 他の人は何もわかっておらず、
- さらにそのことに気付いていない
状況で、
- 自分は自分が何がわかっていないかを分かっている
とき、1番うまくいく。
悪い偶然に対しては、被害妄想みたいな態度をとる
細かいことや局所的なことは見ない。
黒い白鳥を厳密に予測しようとはせず、備えることに資源を費やす。
むしろチャンスや、チャンスみたいに見えるものには片っ端から手を出した方が良い。
そのときには、
- 予測を信頼しない
- 予測に反論しない
という、予測に対するダブルスタンダードな態度が重要になる。
そして、そもそも稀な事象の起こる確率は計算できない(しなくていい)。
よって、その事象が起こった場合のペイオフや恩恵に思考の焦点を絞ればいい。
参考文献
今回の記事で紹介した内容は、以下の書籍の要約です。
また、ブラックスワン理論を提唱した著者、ナシーム・ニコラス・タレブ氏の新刊「身銭を切れ――『リスクを生きる』人だけが知っている人生の本質」では、
リスクが本質的に予測できないものであるからこそ、より積極的にリスクを取ることで莫大なリターンを得ることができる、むしろ成功を手にするためには、リスクを取る以上に最適な戦略はないことを強調しています。
この本の欠点を強いて挙げるとしたら、本文中に様々な「リスクを取らない」職業(学者とか)に対する批判が延々と展開されていて、あなたの職業によっては癇に障る部分がある点かもしれません(一説によると、それが面白いとする見方もある)。
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