事象の列を構成する要素が互いに包含関係にあるとき、その方向によって単調増大列または単調減少列と呼ばれます。
この記事では、単調増大列と単調減少列の定義と性質を解説し、これらが収束することに基づいて確率の連続性という性質を証明します。
確率の連続性は、無限回の試行についての確率を考えるための重要な関係式を導きます。
単調増大列と単調減少列
確率を考える事象は集合として表現できます。
これは、
- 事象 \(A\) :「雨が降っている」
- 事象 \(B\) :「強い雨が降っている」
という2事象があったときに、 \(A\supset B\) という関係として解釈できることから理解できます。
つまり、事象 \(A\) は、強い雨・弱い雨など、さまざまな雨を要素に含んだ集合に相当します。
事象 \(A, B\) のような包含関係にある事象を列に並べたとき、単調増加列・下極限集合を定義することができます。
定義
\(\mathfrak{B}\) を可測集合族(確率を定義した事象の集合)とする。
事象の列 \(A_{k}\in\mathfrak{B},\quad k=1,2,\ldots\) について、
\(A_{k}\) が \(A_{k}\subset A_{k+1}\) をみたすとき単調増大列といい、
逆に \(A_{k}\supset A_{k+1}\) をみたすとき単調減少列という。
定義にもとづく性質
定義より、 \(A_{k}\in\mathfrak{B}\) が単調増大列のとき、以下が成り立ちます。
$$すべての m (\geq 1)について、\bigcup_{k=m}^{\infty}A_{k}は等しい\tag{1}$$
$$\bigcap_{k=m}^{\infty}A_{k}=A_{m}\tag{2}$$
同様に、単調減少列のときは以下が成り立ちます。
$$すべての m (\geq 1)について、\bigcap_{k=m}^{\infty}A_{k}は等しい\tag{3}$$
$$\bigcup_{k=m}^{\infty}A_{k}=A_{m}\tag{4}$$
確率の連続性
単調増大列・単調減少列には、
$$P\left(\lim_{k\to\infty}A_{k}\right)=\lim_{k\to\infty}P(A_{k})$$
を成り立たせる、確率の連続性という性質があります。
以下、この性質が成り立つことを証明します。
前提となる定理
事象の列 \(A_{k}\in\mathfrak{B},\quad k=1,2,\ldots,\) が単調増大列のとき、
$$P(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k})=\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k})\tag{5}$$
が成り立つ。
同様に、事象の列 \(A_{k}\in\mathfrak{B},\quad k=1,2,\ldots,\) が単調減少列のとき、
$$P(\bigcap_{k=1}^{\infty}A_{k})=\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k})\tag{6}$$
が成り立つ。
証明
事象の列 \(A_{k}\in\mathfrak{B},\quad k=1,2,\ldots,\) が単調増大列の場合を考えます。
$$B_{1}=A_{1}$$
$$B_{k}=A_{k}\cap A_{k-1}^{c}, \quad k=2,3,\ldots$$
とおきます。ここで、 \(A^{c}\) は \(A\) の補集合です。
\(B_{k}, k=1,2,\ldots\) は互いに排反なので
$$P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}B_{k}\right)=\sum_{k=1}^{\infty}P(B_{k})\tag{7}$$
となります。
これは、和事象の確率の性質を一般化したものであり、以下の記事で詳しく説明しています。
ここで明らかに
$$\bigcup_{k=1}^{\infty}B_{k}=\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}$$
であり、また \(A_{k}\) は単調増加列であるから
$$\sum_{k=1}^{n}P(B_{k})=P(A_{1})+\sum_{k=2}^{n}\{P(A_{k})-P(A_{k-1})\}=P(A_{n})$$
と計算できます。
したがって、式 \((7)\) より
$$P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=\sum_{k=1}^{\infty}P(B_{k})$$
$$P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{k=1}^{n}P(B_{k})$$
$$P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}P(A_{n})$$
が成り立ちます。
\(A_{k}\in\mathfrak{B}\) が単調減少列のとき、 \(A_{k}^{c}\in\mathfrak{B}\) は単調増大列より
$$P(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}^{c})=\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k}^{c})$$
となるので
$$P\left(\bigcap_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=P\left(\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}^{c}\right)^{c}\right)=1-P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}^{c}\right)$$
$$=1-\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k}^{c})=\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k})$$
が導かれます。
集合列の収束と確率の連続性
単調増大列と単調減少列は収束します。
その詳細は以下の記事でくわしく解説しています。
集合列が収束するとは、上極限集合と下極限集合が一致することを意味します。
その値を
$$\lim_{k\to\infty}A_{k}$$
とすると
\(A_{k}\in\mathfrak{B}\) が単調増大列のとき
$$\lim_{k\to\infty}A_{k}=\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}$$
であり、単調減少列のときは
$$\lim_{k\to\infty}A_{k}=\bigcap_{k=1}^{\infty}A_{k}$$
となります。
これらを用いると、単調増大列に関する定理 \((5)\) より
$$\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k})=P\left(\bigcup_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=P\left(\lim_{k\to\infty}A_{k}\right)$$
であり、同様に、単調減少列に関する定理 \((6)\) より
$$\lim_{k\rightarrow\infty}P(A_{k})=P\left(\bigcap_{k=1}^{\infty}A_{k}\right)=P\left(\lim_{k\to\infty}A_{k}\right)$$
となるため、上記の定理は単調増大・減少列の場合ともに
$$P(\lim_{k\to\infty}A_{k})=\lim_{k\to\infty}P(A_{k})$$
と書けることがわかります。
このように、
- 事象の極限に対する確率
- 事象に対する確率の極限
が等しくなる性質を確率の連続性といいます。
この性質は、無限回の試行についての確率を考える際によく利用されます。
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