この記事では有名な問題を例に、暗号を解くために必要な考え方・手順について説明する。
出題
問題は、自動車メーカーAudiが2012年に行ったキャンペーンで出題されたものである。
MENSAが出題者となったことでも話題になった。
後にヒントも与えられた。
ヒント1
※多分、このヒントは無い方がわかりやすい。とりあえず、真ん中は「5」だと考えるとよい。
ヒント2
解答時間
パズルに自信のある人は挑戦してみてほしい。
ちなみに、このキャンペーンでは、正解者の中から抽選で1名に新型Audiの無料リース権が与えられた。
解説と暗号解読の基礎
解答は「VORSPRUNG(ドイツ語で『先進』)」である。(ドラッグして反転)
見事正解に至ることができた貴方は、この記事など読む時間が勿体無いので、カラパイアで面白い記事でも探して楽しんでほしい。
では解説に入ろう。
まず第一に、そもそも「暗号を解読せよ」の意味がわからなかったという人も多いだろう。
大前提として、暗号問題はほとんどの場合「文字」や「文章」が答えとなる。
そのため、我々は意味不明な数列や図を、なんとかして文字に変換しなければならない。
このことは非常に重要であるため、強調しておく。
暗号を解読する、とは
与えられた問題を「文字」に変換すること
である。常にこの方針を忘れないことが、問題解決の第一歩である。
さて、今回の問題でこの作業を行うためには、以下の3つ(または4つ)のセンスや知識が必要だった。
- 「xyz座標軸」は、「順番のある数字に変換できる図形」であること
- 「3桁の3進数」は、「アルファベット」に変換できること
- 「方陣(n×nの図形)」は、「魔術師のもの」であること
- (問題の背景。今回はAudiという会社の情報)
1.「xyz座標軸」は、「順番のある数字に変換できる図形」であること
問題の下部に描かれている「座標軸」。これは明らかに重要そうである。
通常、立体図形が与えられると、そこから「辺の数」「表面積」「体積」などを考え、周りと比較してみるのが有力な手である。
この作業によって、「図」をひとまず「数字」に変換することができる。
その後、「数字」を「文字」に変換する方法を考えればよい。
しかし、この方法には弱点がある。
この方法により1つの図から複数の「数字」を抽出することができるが、それらをどう並べたらよいかは不明なのである。
例えば「表面積」=「14」、「体積」=「3」が得られたとして、その立体が示す数字が「14,3」なのか「3,14」は分からない。
なぜならば、「『表面積』は『体積』よりも前である」というルールはどこにも存在しないからである。
(㎡と㎥だから「表面積」が前?いやいや、「『タ』イセキ」と「『ヒ』ョウメンセキ」なら、どの辞書でも「体積」が前に来るじゃないか!)
しかし「xyz座標軸」ならば問題ない。
座標軸とは、立体の長さを測るモノサシ(目盛りは「ヒント2」が示してくれている)であり、これを使えば図形から「x座標」「y座標」「z座標」という3つの数字を抽出する事ができる。
そして、これら3つの数字はx,y,zの順で並べるという世界共通のルールがあるので、並べ方の問題は発生しないのである。
では、問題の立体を座標で変換してみよう。
(1,2,0) | (0,2,1) | (2,0,1) |
(2,1,0) | (1,2,1) | (2,0,0) |
(2,0,0) | (2,1,1) | (1,1,2) |
(※ここで、中段右と下段左を見るときには注意してほしい。下段中央の斜辺などど長さを比較してみると、これらはx=2であることがわかる)
以上の作業の結果、0と1と2の3つの数字だけから成る、3人1組の「数字」が抽出できた。
ここで次の考え方が必要になる。
2.「3桁の3進数」は、「アルファベット」に変換できること
『0と1と2の3つの数字だけから成る、3人1組の「数字」』を見たときには、「3桁の3進数」を考えるクセをつけよう。
なぜならば、「3桁の3進数」は特に重要な「数字」だからである。
おなじみn進数とは、「0~(n-1)までのn種類の数字を用いて数をあらわす方法」である。
nに入る値が小さいと使える数字が少ないので、同じ桁数でも小さい数までしかあらわすことができない。
例えば10進数では3桁で999までの数をあらわす事ができるが、2進数では3桁使っても「111」、すなわち(10進数で書くところの)7が限界である。
(一般に、n進数はm桁で「(nのm乗)-1」までの数をあらわすことができる。したがって、0からこの数字までのnのm乗種類の数をあらわせる)
3桁の3進数であらわすことができる数は、10進数で書くところの(3の3乗)-1=27-1=26までである。
この26という数字を見てピン!と来た人はパズルの才能がある。
そう、26とは、アルファベットの総数と同じなのである。
つまり、1→A、2→B、…と対応させていくと、26→Zまで、ちょうど1対1で対応させられる。
冒頭に示した通り、暗号を解くには最終的に「文字」への変換が不可欠である。
ゆえに文字への変換という点で、「3桁の3進数」はその性質上、重要な意味を持つのだ。
(もちろん「000」=0もあらわせるので、この0が何らかの記号と対応することもある)
以上の手順により、まず座標を3進数と見てから10進数になおすことにしよう。
120 | 021 | 201 |
210 | 121 | 200 |
200 | 211 | 112 |
↓
15 | 7 | 19 |
21 | 16 | 18 |
18 | 22 | 14 |
これをアルファベット(=「文字」。解読はすぐそこだ!)になおすと、
O | G | S |
U | P | R |
R | V | N |
となる。あとはこれを読めばいいだけだが、OGSUPRRVN…?なんのこっちゃ、まだまだ立派な暗号である。
どうも読む順番を工夫する必要がありそうだ。(そもそも横に読んでいけ、などというルールはどこにもないのだ)
となると重要になりそうなのは、四隅の左上にある数字2,4,6,8だ。
しかし、1,3,5,7,9はどこにあるのか?
3.「方陣(n×nの図形)」は、「魔術師のもの」であること
正直に言おう。
この章の題名はただちょっと格好つけたかっただけだ。
章の意図しているところは、「n×nの図形を見たら、魔法陣と思え」ということだ。
魔法陣とは、n×nの図形に適切に数字を配置し、タテ・ヨコ・ナナメ全ての数字の和が等しくなるようにしたものだ。
自分でパズルを作ってしまうようなパズルオタクは、もれなくこの魔方陣が好きなのである。
しかし、魔法陣を考えろと言った理由はこれだけじゃない。
3×3は、魔法陣の中でも特別なのだ。
まず、1×1では魔法陣とは言えないし、2×2では同じ数字を使わないと成立しない。
よって3×3は最小の魔法陣と言ってよい。
そして実は、1~9の数字を用いて魔法陣を作る方法は、
2 | 9 | 4 |
7 | 5 | 3 |
6 | 1 | 8 |
しか存在しないのだ。(あとはこれを回転させたもの)
このことから、2,4,6,8の配置を見ても、魔法陣の存在を推測することができるのである。
(以上のことを示唆しているのが「ヒント1」なのであろうが、これは逆にわかりにくくしているような気もする)
さて、上の魔法陣の通りにアルファベットを読むと「VORSPRUNG」となる。
…まだ意味不明?いや、しかしこれは何らかの単語っぽい。
というわけでGoogle先生に聞いてみると、これはドイツ語で「先進」という意味の単語らしい。
…そういえばAudiはドイツの会社だ!
これが第4のセンスである。
【答え】
「VORSPRUNG(ドイツ語で『先進』)」
まとめ
以上、問題の解説をしながら、暗号の解き方について見てきた。
暗号を解くにあたり、数学的センスや知識があれば有利になることは言うまでもない。
しかし、一番重要なことは
「暗号を解く」=「『文字』に変換する」
ことであるという方針を忘れないことである。
どこからか『文字』を見つけ出そうとする姿勢が、きっと解読への道を照らしてくれるはずだ。
最後に
時々、このような暗号やIQパズルの類は「作問者のひとりよがりなルールでしかない」という批判を受けることがある。
つまり、例えば「1,2,3,?。?に入る文字は何か」と問われた時、順当に「4」と答えても、「1+2=3と来たから2+3=『5』が入る」と答えてもよいだろう、というわけだ。
しかし、その考え方はあまりよろしくない。
なぜならば、暗号とは「他人からわからないように隠すもの」でありながら、そのもとになった文章は「誰かに何かを伝えるためのもの」であるからだ。
だから作問者たちは、「容易に解かれるのは気に食わない」と思いながら、また「誰からも解かれないのは寂しい」とも思っている。
面倒な奴らなのだ。(西野カナみたい?)
ゆえに彼らは、問題を複雑にしながらも、どこかに「とある手順を使わなければならないための理由」を設定する。
大抵、世間一般に約束したルールに従って。
したがって、よくよく問題を読んでやれば、自ずと道は定まるものなのである。
こう考えると、よく問題も吟味しないうちから「ひとりよがりのお遊びだ」と突っ撥ねるのは、「初めから思っていることを一字一句丁寧に言葉で説明しないから、お前の気持ちがわからない」と言うのと同じようなことではないだろうか。(西野カナのアンチに多そう)
まとめると。
暗号やパズルは、メッセージ、である。
したがって、1つの解き方や答えに必ずたどり着くことができる。
そのためには、面倒くさい奴らの面倒くさい表現に、とことん付き合ってやることが大切なのだ。
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