キャラクター間の強弱についての考察―「トムとジェリー」「らんま1/2」を例に

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概要

この記事では、創作におけるキャラクターデザインについて、キャラクター間の強弱関係の観点から考察する。その際、キャラクター間の強弱が固定された作品の例として「トムとジェリー」、固定されていない作品の例として「らんま1/2」を挙げる。これらの作品の設定に基づく面白さについて考察した後、「強弱関係」の重要性について総括する。

※なお、本文中では可能な限りネタバレがないように努めたが、説明の都合上、思わせぶりな表現を用いざるを得なかった部分もあるので注意していただきたい。

本文

創作における「キャラクター間の強弱関係」

「キャラ付け」は通常、服装・体型・性別・人種・国籍・特技などによって行われることが多いが、これらはすべて個人を特定するためのものである。

しかし、キャラクターを定義する別の方法として、複数のキャラクター間の関係性を用いることができる。例えば親子・兄弟姉妹・双子などの関係性が挙げられるが、もっと単純に「強い方と弱い方」という定義づけが可能である。

このような強弱の関係を完全に固定した作品の例として「トムとジェリー」、逆に、複雑かつ可変なものとした例として「らんま1/2」を取り上げ、それぞれの特徴について考察する。

トムとジェリー

「トムとジェリー」においては、強いネズミ(ジェリー)が弱いネコ(トム)を懲らしめる(おもちゃにする)という流れがセントラルドグマとして固定されている。

この作品の魅力は、トムがどんな手法で攻撃してきても、ジェリーが必ずそれを上回る方法で反撃するという所にある。すなわち、ジェリーがトムを完封する様子を楽しむ作品なのである。

ここに、キャラクター間の強弱を固定するメリットを見ることができる。視聴者にとって、ジェリーが勝ちトムが負けることは完全に予想済みなので、あとは「ジェリーがどのように勝つか」という点に注目できるのだ。この「どのように」の部分はすなわち、攻撃・反撃の手法のことである。

トムの先制攻撃に対して、ジェリーはこう対応。ここで一段落。

トムの次の攻撃に対して、ジェリーはこう回避。また一段落。

トムの渾身の攻撃を、ジェリーが逆に利用して反撃。決着。

という感じで、1つ1つの仕掛けをしっかりと見せることができる。そして、その仕掛けが非常に多様な発想(日用品を組み合わせた自作の武器、食べ物攻撃など)に基づいていることが、この作品が名作といわれる所以だろう。

では、例えばトムとジェリーの強弱が固定されておらず、勝負のゆくえが最後までわからなくなっていたとしたらどうか?

この場合、決着がついた後で戦闘シーンを振り返ることになる。どこで勝敗が分かれたか。話はかなり複雑になり、「大人も子供も楽しめる」という現在のポジションは得られなかったかもしれない。

らんま1/2

あらすじ

この作品を知らない令和の子供たちのために説明しておくと、「らんま1/2」は高橋留美子が週刊少年サンデー(コナンとか、かってに改蔵とか載ってる雑誌)で1987年から1996年の間に連載していた格闘ラブコメ漫画である。

あらすじはWikipediaを参照のこと。というか買って読め。いまどき漫画アプリでも読める。絶対後悔させない。

「らんま1/2」における強弱関係

ほとんどの漫画は「トムとジェリー」ほどキャラクター間の強弱がはっきりしていないが、それでも何らかの序列がある。しかし「らんま1/2」においては、多様なキャラクター間の強弱が、これでもかというほど複雑に入り組んだ設定になっている。

これを読み解くうえで、「循環」と「変化」というキーワードに基づいて、強弱関係を考察してみたい。

循環

「らんま1/2」の登場人物間には、単純な戦闘力・好意・恐怖・弱みを握った(握られた)などの要因によって、じゃんけんのような強弱関係の循環がある。

例えば、あかね・乱馬・良牙の関係について考える。

まず、基本的に乱馬はあかねに弱い(確信)。あかねに対し乱馬も色々言うが、絶対的に弱い。

次に、乱馬は1対1なら良牙に強い。これは良牙が決闘場に辿り着けないからというだけでなく、とある秘密を握っているからでもある。

そして、良牙は水を被るとシャルr…になれるのであかねに好かれる。この状況においては、もはや乱馬も良牙を攻撃できない。

すなわち各人が各人に対して得意・不得意があるため、強さのヒエラルキーが実質構成されないようになっている。

変化

前項でも述べたように、「らんま1/2」には「水を被ると〇〇に変身し、お湯を被るともとに戻る」という画期的なシステムがある。例えば乱馬は「娘溺泉」の影響で、水を被ると女になる。このとき、性別だけでなく戦闘力にも変化が起こる(若干弱くなる)。

これにより、非常に不思議な関係を作ることができる。

例えば、珊璞(シャンプー)にとって乱馬(男)は「我的愛人」であるが、水を被って現れた乱馬(女)は殺害対象である。また、基本的に乱馬(男&女)の戦闘力はシャンプーよりも高いが、シャンプーは水を被ると…になるため、乱馬を倒せる。

このように、1対1の関係でも強弱が固定されておらず、「水」という簡易なスイッチを用いることで無限の可能性を生み出すことができる。

強弱関係の運用

以上の「循環」「変化」による強弱関係の複雑化があるために、物語の中では、任意の人物に対して、必ずそれよりも強い人(と状態)をぶつけることができる。これが後出しじゃんけんの連鎖のように続いていくことで1話が完成し、登場させる順番を変えればまた別の話になる。

通常、格闘漫画であればこのような複雑な強弱関係は生じえない。なぜならば、彼らは常日頃から強弱関係を競っているようなものだからだ。しかし、明確にヒエラルキーが完成してしまうと面白くないので、実際は序列をぼかす手法が用いられる。例えばトーナメント制を用いることで、序列3~8位くらいのキャラクター間では直接戦闘が起こらないようにする、等である。これにより、主人公とライバルと、あと同じくらいの実力の猛者5,6人が人気キャラとして存在できる。

対して「らんま1/2」では、毎話で全員が全員と戦っていると言っても過言ではない。それは「うる星やつら」から続くドタバタラブコメディーの宿命である。その際、強弱関係が複雑であるために結果は一定とならず、非常にバラエティーに富んだ話を作ることができる。

総括

キャラクターが魅力的であれば、その作品も魅力的である。しかし、創作が溢れる現代において、個人の特性だけで独創的なキャラクターを作ることはもはや不可能であり、他作品との差別化を無理に図ろうとすると「属性盛り過ぎ」となる。

その際、キャラクターの特性を他のキャラクターとの関係性から定義する手法は有効であり、その単純なものとして、この記事では「強弱関係」を取り上げた。

「トムとジェリー」では強弱関係が固定されており、その結果、様式美的な楽しみ方をできる作品が生まれた。子供向け、または単純に笑える作品を作るうえで、強弱関係を固定する手法は有効でありそうだ。

類似の作品として、「ルーニー・テューンズ」のトゥイーティー(強)とシルベスター(弱)、バッグス・バニー(強)とヨセミテ・サム(弱)、ロード・ランナー(強)とコヨーテ(弱)などの関係があるが、すべて草食動物が強く、肉食動物が弱いことは注目に値する。ここが、強弱関係を固定する際の注意点と言えるかもしれない。

基本的に、我々は強弱関係が固定された「弱い者いじめ」には飽きやすいのだろう。多分、肉食動物が常に草食動物に勝つという話だと面白くない。そこで、現実の食物連鎖と逆にするということが、強弱関係を固定した場合にも関心を維持し続けるという点で、重要になってくるのではあるまいか。

対して「らんま1/2」では、登場人物間の強弱関係が固定されていない。これは、この作品が週刊連載をしていたことを考えると、非常に大きなメリットとなっただろう。

先述の通り、スポットライトの当たった人物に対して、次々とより強い存在を当てていくことで、場面展開を延々と行うことができる。また、その順番は無限であり、さらに新キャラを登場させることで組み合わせが広がる。そして、活躍できているキャラクターとできていないキャラクターの間で差が広がれば、前者に強く後者に弱いキャラクターを新レギュラーとして登場させればよい。

以上のようにすることで、話が非常に作りやすくなる。これは、もし「トムとジェリー」が週刊漫画であった場合、仕掛けのネタを毎週考えるのは至難の業であることからも想像できるだろう。

以上、久しぶりに「らんま1/2」を読み直して再びドハマりした筆者の感想でした。

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