経済制裁の国際政治学―中間的戦略の効果と問題点

経済制裁とは、相手国に対する経済的手段を用いた一方的かつ対立的な外交政策であり、具体的には海上封鎖、海外資産の凍結、経済援助の停止、国連安保理の決議などとして実行される。経済政策は、軍事的制裁などのコストの高い政策手段と、外交抗議などの効果の薄い手段の中間にあり、使用しやすい手段であることが、経済制裁が多用される大きな要因となっている。本論では、実際の事例を踏まえて経済制裁の効果と問題点について説明し、考察を加えていく。

天安門広場[1]
一般に、経済制裁の効果はそれほど高くないと考えられている。南アフリカのアパルトヘイト政策に対する経済制裁は約30年間に及んだが、実質的な効果に乏しかった。これは、レアメタルなどの希少資源に対する需要から、制裁中も第三国を介して南アフリカとの取引が継続されていたことが要因とされる。また、中国の天安門事件やインドの核実験に対する経済制裁も、政策の転換には至らなかった。しかし、ハフバウワーらの分析によれば、経済制裁の効果はその政策目標によってかなり異なることが明らかになった。20世紀以降、経済政策は穏健な政策変更を約5割の確率で成功させているが、体制変換/民主化の成功率は約3割、軍事的冒険の阻止の成功率は約2割に止まった。また、経済制裁は政治経済関係の深い友好国ほど効果が高い傾向にあり、逆に関係の薄い国や、安定した専制的な体制を持つ国に対しては効果が低いことが指摘されている。したがって、経済制裁はその政策目標に応じて選択されるべきであり、穏健な政策変更に対しては経済制裁だけでも効果が期待されるが、軍事行動の阻止を目標とした場合には他の外交政策との併用が必要となる。例えば、1962年のキューバ危機においては、海上封鎖による経済制裁は軍事的制裁の前段階として実施されている。

海上封鎖宣言に署名するケネディ大統領(1962)

経済制裁の問題点としては、以下の2点が指摘されている。第1に、経済制裁の長期化は、相手国の現地社会の貧困化と経済格差の拡大を招く。1990年代前半のハイチに対する経済制裁では医療品などは免除されたが、燃料の不足で物資の配給が遅れて弱者の生活環境を悪化させた。これにより、制裁解除後の復興が困難になる。第2に、経済制裁が失敗した場合、危機の長期化をもたらし、さらに相手国の自立化を招くことによって、相手に対するコントロールが難しくなる場合がある、こうした失敗を回避するため、実際に取られる行動は、経済制裁の威嚇に止められることも多い。新規援助のみを停止したり経済制裁の実施を事前に威嚇したりすることで、段階的に圧力を強める余地が残されるためである。

以上より、経済制裁はその政策目標によって効果が異なり、制裁が長期化または失敗した場合は政策目標の実現が非常に困難なものとなりうる。そのため、経済制裁単体での政策実現を求めるのではなく、他の軍事的・外交的な手段と組み合わせた交渉が必要となる。

【参考文献】

[1] Derzsi Elekes Andor – File:Tiananmen Square, Beijing, China 1988 (1).jpg (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tiananmen_Square,_Beijing,_China_1988_(1).jpg)

[2] 藤原帰一「国際政治」(2007)放送大学教育振興会.

[3] ジョセフ・S. ナイ ジュニア, デイヴィッド・A. ウェルチ「国際紛争―理論と歴史 原書第10版」(2017)有斐閣.

神経科学を研究している博士学生。Python, Rust, C/C++, C#, Julia, Common Lisp, Unityを活用して、世界の様々な現象をシミュレート・分析しています。理系分野だけでなく、政治学や社会学も、もちろん分析対象です。

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