MOSFETの原理と種類―NMOSとPMOS

半導体からコンピュータへ
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概要

MOSFETとは何か?」 その作り方と動作原理を解説する。

この記事を読むことで、MOSFETが電圧制御のスイッチとして働く理由や、NMOS/PMOSの違いを理解できる

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この記事はシリーズ「半導体からコンピュータを作る」の第4章である。

過去の章で前提となる知識を解説しているため、不明点があれば参照してほしい。

また、記事の内容を理解した後、シリーズの他の記事を読み進めることで、半導体やコンピュータに関する知識を深めることができる。

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MOSFETとは

MOSFET電界効果トランジスタFET)の1種であり、電圧によるスイッチング機能に優れているため、集積回路で最も一般的に使用されているトランジスタである。

ちなみに、FETや前回紹介したバイポーラトランジスタの他にも、トランジスタには以下のような種類がある。

  • 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)
  • トレンチMOS構造アシストバイポーラ動作FET(GTBT)
  • ユニジャンクショントランジスタ(UJT)
  • プログラマブルUJT(PUT)
  • フォトトランジスタ
  • 静電誘導型トランジスタ(SIT)
  • ダーリントントランジスタ
  • パワーバイポーラトランジスタ

MOSFETの作り方

上図はn型MOSNMOS)と呼ばれるMOSFETである。

p型半導体の基板の一部(2か所)に不純物をイオン注入してn型半導体とし、n型半導体間にはゲート酸化膜(上図青長方形)を挟んだゲートG)電極を作る。

2つのn型半導体領域はドレインD)とソースS)という端子となる。

すなわちMOSFETはゲートG)、ドレインD)、ソースS)の3つの端子を持つ。

p型基盤とソースは接地され(0V)、ゲートとドレインには正電圧を加える。

この時、ゲート‐ソース間にかかる電圧を \(V_{GS}\) 、ドレイン‐ソース間にかかる電圧を \(V_{DS}\) とする。

MOSFETの動作原理

基本

ゲートに正電圧が印加されていない場合、ドレインとソースは分離されているため、 \(V_{DS}\) をいくら大きくしてもドレイン‐ソース間には電流が流れない

しかし、ゲートに正電圧が印加するとゲート付近に電子が吸い寄せられ、反転層と呼ばれるn型半導体に類似した領域が生ずる(下図)。

この反転層はいわばドレイン‐ソース間の架け橋であり、この状態になれば電子がソースからドレインに移動する1続きの道ができるため、ドレイン‐ソース間に電流が流れるようになる

なお、上図で反転層の形がナナメになっているのはドレインにかかる正電圧の影響であり、ゲート・ドレイン双方に正電圧がかかることでゲート‐ドレイン間の電圧( \(V_{GD}=V_{GS}-V_{DS}\) )はゲート‐ソース間の電圧よりも小さくなり、電子を吸い寄せる力が小さくなるためである。

以下、各電圧の変化によるMOSFETの動作について説明する。

遮断領域

ゲートに正電圧をかけることで反転層が生じるが、そのためには \(V_{GS}\) の値が一定の閾値( \(V_t\) )を超える必要がある。そのため、

$$V_{GS}< V_t$$

の時にはドレイン‐ソース間には電流が流れない

このような状態を遮断領域という。

線形領域

逆に、 \(V_{GS}>V_t\) の時はドレイン‐ソース間には電流が流れ、その電流値は \(V_{DS}\) の上昇に比例する。

しかし、 \(V_{DS}\) が上昇するにしたがってドレイン付近の反転層は薄くなり、最終的には反転層の通路が途切れる。

これは、 \(V_{GD}\quad(=V_{GS}-V_{DS})\) が \(V_t\) を下回ることによって生じるものである(ピンチオフ)。

\(V_{GS}>V_t\) で、ピンチオフせずにドレイン‐ソース間の電流が \(V_{DS}\) に比例する状態を線形領域といい、この時の条件は

$$V_{GS}-V_{DS}>V_t$$

である。

飽和領域

$$V_{GS}-V_{DS}< V_t$$

のとき、ピンチオフが生じて反転層の通路は断絶する(下図)。

この状態になると、 \(V_{DS}\) を上昇させてもピンチオフ点がわずかにソース側に移動するだけでドレイン‐ソース間の電流は変化しない。

したがって、これ以上の \(V_{DS}\) では電流は定常流となり、この状態のことを飽和状態という。

まとめ

電圧変化によるMOSFETの動作条件は、以下のようにまとめられる。

状態条件電流
遮断領域\(V_{GS}< V_t\)流れない
線形領域\(V_{GS}-V_{DS}>V_t\)\(V_{DS}\) に比例
飽和領域\(V_{GS}-V_{DS}< V_t\)定常流

MOSFETの種類

前章までで説明したのはn型MOSNMOS)と呼ばれる型のMOSFETであり、これはキャリアとして電子を用いていた。

これに対し、キャリアに電子ではなく正孔を用いるp型MOSPMOS)と呼ばれる型も存在する。

両者は、

  • ゲート-ソース間の電圧 \(V_{GS}=V_G-V_S\) による反応
  • ドレイン-ソース間に流れる電流の方向

の2点で挙動が異なる。

n型MOS(NMOS)

ゲートに正電圧がかかる( \(V_{GS}>V_t\) )とドレイン→ソース方向に電流が流れる。

p型MOS(PMOS)

ゲートに負電圧がかかる( \(V_{GS}<-V_t\) )とソース→ドレイン方向に電流が流れる。

MOSFETが利用される場面

バイポーラトランジスタベース電流の変化によってスイッチ増幅の機能を果たしているのに対し、MOSFETゲート電圧によってそれを制御している。

MOSFETのこのような性質は、消費電力の少なさという面で優れている。

また、MOSFETがコンピュータを始めとした論理回路によく用いられるのは、その構造上集積化が容易であるからという側面もある。

次回予告

n型・p型のMOSFETを組み合わせて、CMOS(Complementary MOS; 相補型MOS)と呼ばれる回路を作ることができる。

その代表的な例として、常に入力と逆の出力を返す論理回路である、NOTゲートを作ってみる。

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