無限級数(無限個の項の和)という形の極限を計算するとき、部分分数分解という手法をよく使用します。これにより1つの分数を2つに分けると、足し算の結果がドミノ倒しのように打ち消し合い、式がスッキリするケースがあります。
この記事を読むことで、部分分数分解を活用して無限級数を計算する方法を、ステップごとに詳しく理解することができます。
部分分数分解
\(A\) から \(F\) を多項式とします。
$$\frac{A}{B}=\frac{A}{C\cdot D}=\frac{E}{C}+\frac{F}{D}$$
のように、1つの分数を2つに分解することを部分分数分解といいます。上の式から、部分分数分解のためには2つの段階を経ることが必要であるとわかります。
- 分母を因数分解( \(B=C\cdot D\) )
- それぞれの分子を決定( \(E, F\) )
1段階目の因数分解は、因数定理を使うと便利です。
2段階目の分子の決定のためには、通分して係数比較を行います。つまり、
$$\frac{E}{C}+\frac{F}{D}=\frac{E\cdot D+F\cdot C}{C\cdot D}$$
より
$$A=E\cdot D+F\cdot C$$
を解くことになります。
「ドミノ倒し」の計算テクニック
数列
$$a_k=\frac{1}{k}-\frac{1}{k+1}$$
を考えます。この数列の \(1\) から \(n\) までの和を考えると
$$\sum_{k=1}^n a_k=\sum_{k=1}^n\left(\frac{1}{k}-\frac{1}{k+1}\right)$$
$$=\left(\frac{1}{1}-\frac{1}{1+1}\right)+\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{2+1}\right)+\cdots+\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+1}\right)$$
$$=1-\cancel{\frac{1}{2}}+\cancel{\frac{1}{2}}-\cancel{\frac{1}{3}}+\cdots+\cancel{\frac{1}{n}}-\frac{1}{n+1}=1-\frac{1}{n+1}$$
となり、まるでドミノ倒しのように最初と最後の項だけが残ります。
このときに考えた数列 \(a_k\) は、部分分数分解の結果としてよく生じます。これらのテクニックを組み合わせることで、計算を楽にすることができます。
無限級数への応用
極限計算の例として
$$\sum_{k=1}^\infty a_k=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^n a_k$$
という無限級数を考えることがあります。これを計算するための手順として、これまでに出たテクニックを組み合わせると、
- \(a_k\) を部分分数分解
- 「ドミノ倒し」で項の数を減らす
- \(n\to\infty\) の極限をとる
という解法を導くことができます。
例題
問題
$$\sum_{k=1}^\infty\frac{k}{1+k^2+k^4}$$
を計算せよ。
分母の因数分解
因数定理を使うためには \(1+k^2+k^4=0\) をみたす \(k\) の値を探す必要がありますが、整数・分数ともに該当するものがありません。よって、因数分解が可能であるとしたら、2次式×2次式の形になります。
それを踏まえて、以下のような計算を行います。
$$1+k^2+k^4=(k^2+1)^2-k^2=(k^2-k+1)(k^2+k+1)$$
これで分母の因数分解を行うことができました。
分子の決定
分母がともに2次式なので、
$$\frac{k}{1+k^2+k^4}=\frac{ak+b}{k^2-k+1}+\frac{ck+d}{k^2+k+1}$$
と部分分数分解できるとします。右辺を通分すると、分子は
$$(ak+b)(k^2+k+1)+(ck+d)(k^2-k+1)$$
$$=(a+c)k^3+(a+b-c+d)k^2+(a+b+c-d)k+(b+d)$$
となるため、以下の連立方程式が成り立ちます。
$$\begin{equation}\left\{ \,\begin{aligned} & a+c=0 \\ & a+b-c+d=0 \\ & a+b+c-d=1 \\ & b+d=0 \end{aligned} \right. \end{equation}$$
これを解いて、
$$a=0,\quad b=\frac{1}{2},\quad c=0,\quad d=-\frac{1}{2}$$
となります。
ドミノ倒しと極限
以上を踏まえて計算すると、
$$\sum_{k=1}^\infty\frac{k}{1+k^2+k^4}=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^n\frac{k}{1+k^2+k^4}$$
$$=\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^n\frac{1}{2}\left(\frac{1}{k^2-k+1}-\frac{1}{k^2+k+1}\right)$$
$$=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2}\left\{\left(\frac{1}{1-1+1}-\frac{1}{1+1+1}\right)+\left(\frac{1}{4-2+1}-\frac{1}{4+2+1}\right)+\cdots+\left(\frac{1}{n^2-n+1}-\frac{1}{n^2+n+1}\right)\right\}$$
$$=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2}\left(1-\cancel{\frac{1}{3}}+\cancel{\frac{1}{3}}-\cancel{\frac{1}{7}}+\cdots+\cancel{\frac{1}{n^2-n+1}}-\frac{1}{n^2+n+1}\right)$$
$$=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2}\left(1-\frac{1}{n^2+n+1}\right)=\frac{1}{2}$$
となります。
極限計算の解法一覧
その他の極限計算の解法は、以下の記事を参照してください。