クオータニオンの定義と性質

クオータニオンによる回転表現
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概要

この記事では、クオータニオン(Quaternion: 四元数)を定義し、その行列表記・交換則・結合則・複素共役・ノルム・逆クオータニオンについて解説する。

定義

クオータニオン四元数)とは、次のように4項を用いて表せる数のことである。

$$\mathbf{q}=q_{0}+q_{1}i+q_{2}j+q_{3}k$$

後述する3次元空間における回転との関係から、係数が以下のように表記されることも多い。

$$\mathbf{q}=q_{w}+q_{x}i+q_{y}j+q_{z}k$$

ここで、 \(i,j,k\) は次の関係を満たす。

$$i^2=j^2=k^2=ijk=-1$$

これは複素数

$$\mathbf{c}=c_{0}+c_{1}i\quad(i^2=-1)$$

の拡張であると考えることができる。

性質

\(i, j, k\) の関係

\(ijk=-1\) の右側から \(-k\) を掛けると

$$ij=k$$

が得られる。また、 \(ijk=-1\) の左側から \(ji\) を掛けると

$$k=-ji$$

が得られる。同様の操作を \(i, j\) を表現するように行うと

$$\begin{cases} {i^2=j^2=k^2=ijk=-1} \\ {ij=-ji=k} \\ {jk=-kj=i} \\ {ki=-ik=j} \end{cases}$$

の関係が導出できる。

「スカラー」と「ベクトル」

クオータニオンを以下のように表記し

$$\mathbf{q}=q_{0}+q_{1}i+q_{2}j+q_{3}k=q_{0}+\mathbf{\bar{q}}\tag{1}$$

\(i, j, k\) を含む項を「ベクトル」としてまとめることが度々ある。これには表記を簡素化する効果の他、後述する3次元空間におけるベクトル(3次元ベクトル)の回転を強調する効果を狙っている。
逆にこの場合、 \(q_{0}\) を「スカラー」と呼称する。

「四元」数の発生

「ベクトル」部のみから成る

$$\mathbf{a}=a_{x}i+a_{y}j+a_{z}$$

$$\mathbf{b}=b_{x}i+b_{y}j+b_{z}$$

について、その積を考えると

$$\mathbf{ab}=(a_{x}i+a_{y}j+a_{z})(b_{x}i+b_{y}j+b_{z})$$

$$=-(a_{x}b_{x}+a_{y}b_{y}+a_{z}b_{z})+(a_{y}b_{z}-a_{z}b_{y})i+(a_{z}b_{x}-a_{x}b_{z})j+(a_{x}b_{y}-a_{y}b_{x})k\tag{2}$$

より、自然にスカラー項が出現することがわかる。

交換則を満たさない

上記の \(\mathbf{a},\mathbf{b}\) について、対応するベクトル

$$\alpha=(a_{x},a_{y},a_{z}),\quad\beta=(b_{x},b_{y},b_{z})$$

を考える。それらの内積と外積は

$$\alpha\cdot\beta=a_{x}b_{x}+a_{y}b_{y}+a_{z}b_{z}$$

$$\alpha\times\beta=(a_{y}b_{z}-a_{z}b_{y},a_{z}b_{x}-a_{x}b_{z},a_{x}b_{y}-a_{y}b_{x})$$

である。これらを用いると、式 \((2)\) は

$$\mathbf{ab}=-\alpha\cdot\beta+\boldsymbol{\bar{\alpha\times\beta}}$$

と表現できる。同様に

$$\mathbf{ba}=-\beta\cdot\alpha+\boldsymbol{\bar{\beta\times\alpha}}$$

であるが、ここで

$$\alpha\cdot\beta=\beta\cdot\alpha$$

であるが

$$\alpha\times\beta=-\beta\times\alpha$$

であるため、 \(\mathbf{ab}\neq\mathbf{ba}\) より、交換則は成立しない

結合則を満たす

新たに

$$\mathbf{c}=c_{x}i+c_{y}j+c_{z}$$

を考え、要素を書き下すと、

$$(\mathbf{ab})\mathbf{c}=\mathbf{a}(\mathbf{bc})$$

となり、結合則を満たすことが確認できる( \(\mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\) にスカラー項を追加しても成立する)。

積の行列表記

以下の2つのクオータニオンを考える。

$$\mathbf{p}=p_{0}+p_{1}i+p_{2}j+p_{3}k$$

$$\mathbf{q}=q_{0}+q_{1}i+q_{2}j+q_{3}k$$

これらの積は

$$\mathbf{pq}=p_{0}q_{0}-(p_{1}q_{1}+p_{2}q_{2}+p_{3}q_{3})+p_{0}(q_{1}i+q_{2}j+q_{3}k)+q_{0}(p_{1}i+p_{2}j+p_{3}k)$$

$$+i(p_{2}q_{3}-p_{3}q_{2})+j(p_{3}q_{1}-p_{1}q_{3})+k(p_{1}q_{2}-p_{2}q_{1})$$

であり、ここで

$$\mathbf{pq}=\mathbf{r}=r_{0}+r_{1}i+r_{2}j+r_{3}k$$

とおき、係数を比較すると

$$\begin{cases} {r_{0}=p_{0}q_{0}-p_{1}q_{1}-p_{2}q_{2}-p_{3}q_{3}} \\ {r_{1}=p_{0}q_{1}+p_{1}q_{0}+p_{2}q_{3}-p_{3}q_{2}} \\ {r_{2}=p_{0}q_{2}-p_{1}q_{3}+p_{2}q_{0}+p_{3}q_{1}} \\ {r_{3}=p_{0}q_{3}+p_{1}q_{2}+p_{2}q_{1}-p_{3}q_{0}} \end{cases}$$

または

$$\begin{bmatrix} {r_{0}} \\ {r_{1}} \\ {r_{2}} \\ {r_{3}} \end{bmatrix}=\begin{bmatrix} p_{0} & -p_{1} & -p_{2} & -p_{3} \\ p_{1} & p_{0} & -p_{3} & p_{2} \\ p_{2} & p_{3} & p_{0} & -p_{1} \\ p_{3} & -p_{2} & p_{1} & p_{0} \end{bmatrix}\begin{bmatrix} {q_{0}} \\ {q_{1}} \\ {q_{2}} \\ {q_{3}} \end{bmatrix}$$

$$=\begin{bmatrix} q_{0} & -q_{1} & -q_{2} & -q_{3} \\ q_{1} & q_{0} & q_{3} & -q_{2} \\ q_{2} & -q_{3} & q_{0} & q_{1} \\ q_{3} & q_{2} & -q_{1} & q_{0} \end{bmatrix}\begin{bmatrix} {p_{0}} \\ {p_{1}} \\ {p_{2}} \\ {p_{3}} \end{bmatrix}$$

と表記できる。

複素共役クオータニオン

式 \((1)\) のクオータニオン \(\mathbf{q}\) の複素共役

$$\mathbf{q}^*=q_{0}-q_{1}i-q_{2}j-q_{3}k=q_{0}-\mathbf{\bar{q}}$$

で定義する。簡単な計算より

$$(\mathbf{pq})^*=\mathbf{q}^*\mathbf{p}^*$$

の関係が導かれる。

クオータニオンのノルム

クオータニオン \(\mathbf{q}\) のノルムを以下で定義する。

$$N(\mathbf{q})=|\mathbf{q}|=\sqrt{\mathbf{q}^*\mathbf{q}}=\sqrt{\mathbf{q}\mathbf{q}^*}$$

式の最後の等号の成立は、要素を書き下すことによって確認できる。

クオータニオンの積のノルムについて、以下の関係が成り立つ。

$$N(\mathbf{pq})=\sqrt{(\mathbf{p}\mathbf{q})(\mathbf{p}\mathbf{q})^*}$$

$$=\sqrt{\mathbf{p}\mathbf{q}\mathbf{q}^*\mathbf{p}^*}=N(\mathbf{q})\sqrt{\mathbf{p}\mathbf{p}^*}=N(\mathbf{p})N(\mathbf{q})$$

ノルムが1となるクオータニオンを単位クオータニオンまたは正規化クオータニオンと呼ぶ。

逆クオータニオン

逆クオータニオンを以下で定義する。

$$\mathbf{q}^{-1}\mathbf{q}=\mathbf{q}\mathbf{q}^{-1}=1$$

左辺の右側、または中辺の左側から複素共役クオータニオンを掛けることによって

$$\mathbf{q}^{-1}\mathbf{q}\mathbf{q}^*=\mathbf{q}^*,\quad\mathbf{q}^*\mathbf{q}\mathbf{q}^{-1}=\mathbf{q}^*$$

が得られ、すなわち

$$\mathbf{q}^{-1}=\frac{\mathbf{q}^*}{N^2(\mathbf{q})}=\frac{\mathbf{q}^*}{|\mathbf{q}|^2}$$

が導かれる。

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