骨髄異形成症候群 (MDS)の骨髄所見と感染症・鉄過剰症対策

医学
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骨髄異形成症候群MDS)の疾患概念や診断基準を整理し、偽ペルゲル核異常過分葉好中球環状鉄芽球などの特徴的な骨髄所見の図を示す。

また、異常な血球が産生されることによる易感染性についても解説し、感染症に対する基本的な治療方針と、状況別の抗菌薬選択基準について述べる。

MDSの疾患概念

遺伝子異常を持つ造血幹細胞のクローン性増殖に基づく、無効造血前白血病状態を臨床的特徴とする疾患群の総称[2]。

MDSの診断基準(WHO分類に合わせて修正されたもの)[2]】

1~3のすべてを満たすものを骨髄異形成症候群と診断する。

  1. 臨床所見として、慢性貧血を主とするが、ときに出血傾向発熱を認める。
  2. 血液検査および骨髄検査で、1.~4.のすべてを満たす。
    1. 末梢血で、1~3系統の血球減少[注1]を認める。
    2. 骨髄塗抹標本で、1~3系統の血球に異形成所見を認める。
    3. 末梢血、骨髄のいずれにおいても芽球[注2]は20%未満。
    4. 末梢血中の単球の絶対数が継続して1,000/µLを超えることはない。
  3. 血球減少の原因となる他の疾患・病態[注3]を認めない。

骨髄像(MDSで認める異形成所見)[5, 7]

赤芽球系


多核赤芽球

核型不整赤芽球

核融解赤芽球

核分裂赤芽球

環状鉄芽球(Fe染色)

顆粒球系


偽ペルゲル(Pelger)核異常

過分葉好中球

脱顆粒好中球

芽球(好塩基性の縁取り)

巨核球系


小核巨核球

多核巨核球

MDSの病型分類(WHO分類)[2]

  1. 不応性貧血(RA)
    • 赤芽球に限局した異形成所見と無効造血所見を示す。
  2. 多血球系異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD)
    • 複数血球系統に及ぶ血球減少および異形成所見(各血球系統細胞の10%以上)を呈す。

  3. 鉄芽球性不応性貧血(RARS)
    • 骨髄赤芽球の15%以上が環状鉄芽球
    • 異形成は赤芽球の血球系統のみ。
  4. 環状鉄芽球を伴う多血球系統をもつ不応性血球減少症(RCMD-RS)
    • RCMDに加えて、顆粒球系もしくは巨核球系細胞にも形態異常を認める。
  5. 分類不能型MDS(MDS-U)
    • 一般に、顆粒球系または巨核球系に限局した異形成所見を示す。
  6. del(5q)単独異常をもつMDS(5q-症候群)
    • 骨髄細胞の染色体分析で5番染色体長腕の欠失のみの異常が見られる。
  7. 芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)
    1. RAEB-1:骨髄に5~9%または末梢血に2~4%の芽球を持つ。アウエル小体(-)
    2. RAEB-2:骨髄に10~19%または末梢血に5~19%の芽球を持つ。アウエル小体(+/-)

MDSの予後および予測因子(IPSS)[1, 2]

予後因子のスコア0.00.51.01.52.0
骨髄での芽球< 5%5~10%11~19%20~30%
核型[注4]良好中間不良
血球減少0~1系統2~3系統

3つの予後因子のスコアの合計に基づいて、以下のリスク群に分類する。

リスク群点数生存期間中央値急性白血病25%移行までの期間
Low05.7年9.4年
Int-10.5~1.03.5年3.3年
Int-21.5~2.01.2年1.1年
High2.5以上0.4年0.2年

Low, Int-1を低リスク群、Int-2, Highを高リスク群として扱う。

MDSの治療[注5]

治療フローチャート

低リスクMDSの治療方針

臨床症状がない場合

低リスクMDSの場合は臨床症状が見られなければ治療の必要はない(①)[4]。

臨床症状がある場合

低リスクMDSに免疫抑制療法[注6]として抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリン(CYA)が用いられることがあるが、日本での保険適用はない(②)[4, 6]。

近年、ダルベポエチンがMDSに伴う貧血に対して適応を取得し、240µg/週1回が推奨容量となった(③)[4]。

低リスクMDSへのアザシチジン適応は造血の回復を期待できるが、生存期間に対する有効性は示されていない(⑤)[4]。

5q-症候群の治療

5q-症候群に対しては、レナリドミドが有効である。

ただし、骨髄抑制を頻発するため、500/µL未満の好中球減少や25,000/µL未満の血小板減少を有する症例への適用は慎重に判断する(④)[4, 6]。

高リスクMDSの治療方針

同種造血幹細胞移植

高リスクMDSに対しては同種造血幹細胞移植が積極的に推奨され、治癒を期待できる唯一の治療である。

PS (Performance Status)と合併症に問題がなければ、年齢にかかわらず診断時に移植を行うことが勧められている(⑧)[4, 6]。

薬物治療

同種造血幹細胞移植が行われない高リスク症例では、アザシチジンが第一選択薬であり、明らかな疾患増悪や有害事象がなければ、少なくとも4~6コース施行した後に有効性の判断を行う(⑥)[4, 6]。

レナリドミドは基本的に高リスクMDSへの適用は推奨されないが、del(5q)を有するアザシチジン不応の症例の場合には使用を考慮してもよい(⑦)[4]。

de novo AML治療で用いられる強力な寛解導入療法はMDSには効果がないとされているが、芽球比率が20%に近く核型が良好で、PSに問題ない若年者に対しては適応を考慮することもある[6]。

薬剤投与容と方法[6]

  • アザシチジン:75mg/㎡, 1日1回7日間, 皮下投与または10分かけて点滴静注。 28日周期。
  • レナリドミド:10mg, 1日1回21日間連日, 経口投与, 28日周期。

MDS治療時の感染症対策

MDSは感染が死因となりやすい

MDS患者は感染症のリスクが高く、アメリカのデータでは、低リスクMDSの死因の38%を感染が占め、最も多い[注7]。

中でも肺炎が最多であり、40%を占める[3]。

対策を要する原因微生物

易感染性の主原因は好中球減少貪食能低下である。

そのため、①グラム陰性桿菌E.coli, Klebsiella, P. aeruginosaなど)、②グラム陽性球菌S. aureus, S. epidermidis, α-Streptococcusなど)、③真菌Candida, Aspergillusなど)、が主な原因微生物となる。

また、発熱性好中球減少症で見られやすいエンテロバクター等にも注意する。

MDS患者には抗酸菌感染が多いとの報告もある[注8]。

抗生物質の使用方針

ウイルスが問題となることは比較的少ない[8]。

MDS患者の感染症に対する予防内服の有効性は十分に示されていない

投与期間が長期になることを考えれば、耐性菌出現のデメリットの方が大きいと考えられる。

患者に発熱が見られた際には速やかに血培等の検査を行い、広域スペクトラムの抗菌薬を投与すべきである。

その後、臨床症状や疫学、重症度に基づいて適切な抗菌薬へとDe-escalationする[3]。

脾膿瘍がある場合の初期治療

培養結果が出るまでは、セフトリアキゾン 2gを注射用水、生食液、5%ブドウ糖液10mLに溶解し24時間ごとに静注(嫌気性菌をカバーする時は、追加でクリンダマイシン 450~600mgを8時間毎に静注投与)することが推奨されている[注9],[8]。

輸血後鉄過剰症とキレート剤

MDS患者は長期間に亘って赤血球輸血を繰り返すことが多く、その際、輸血後鉄過剰症が問題となる。

輸血後鉄過剰症の診断基準

輸血後鉄過剰症の診断基準は、以下の1,2を共に満たすことである[5]。

  1. 総赤血球輸血量20単位以上
  2. 血清フェリチン値500ng/mL以上

鉄過剰症が易感染性を増悪させる

鉄の過剰沈着は肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、内分泌臓器、中枢神経を障害するのみならず、易感染性に対して

  1. 鉄が細菌(YersiniaLegionellaなど)の栄養素となる
  2. IFN-γ、TNF-α等を抑制し、マクロファージ、好中球、T細胞の機能を抑制する、という理由から悪影響を与える[3, 5]。

という面で悪影響を与える。

輸血後鉄過剰症の治療方針と注意点

鉄過剰症は①総赤血球輸血量40単位以上かつ②血清フェリチン値1,000ng/mL以上を治療開始基準とし、デフェラシロックス等の鉄キレート剤によりフェリチン値の改善を図る[5]。

デフェラシロックスはMDS患者の生存期間延長に寄与する可能性が指摘されている[4, 5]が、鉄キレート剤が感染リスクを軽減するというデータは未だ示されていない[3]。

さらに、鉄キレート剤(注射薬)であるデフェロキサミンはシデロフォアとして働き、ムーコル症を増悪させることがある[3]。

【参考文献】

[1] 直江智樹, 中村栄男他「WHO血液腫瘍分類~WHO分類2008をうまく活用するために~」(2010)医薬ジャーナル

[2] 日本血液学会、日本リンパ網内系学会「造血器腫瘍取り扱い規約2010年3月【第1版】」(2010)金原出版

[3] Toma A, Fenaux P, et al. Infections in myelodysplastic syndromes. Haematologica. 2012;97:1459-1470.

[4] 日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン2013年度版」(2013)金原出版

[5] 小澤敬也(研究代表者)「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」(2008)

[6] 直江知樹, 小澤敬也, 中尾眞二「血液疾患 最新の治療2014-2016」(2016)南江堂

[7] 血液腫瘍画像データベース 2017年3月14日13:00閲覧

[8] 青木眞「レジテントのための感染症診療マニュアル第3版」(2015)医学書院

脚注

[注1] 成人における血球減少は、①ヘモグロビン濃度:男 12.0g/dL未満、女 11.0g/dL未満、②白血球:4,000/µL未満、または好中球:1,800/µL未満、③血小板:10万/µL未満。

[注2] 核小体を持ち、核網が繊細な未熟白血球。細胞質にアズール顆粒を認めても、核網が繊細顆粒状で、かつ細胞質に明瞭なゴルジ体を有しなければ芽球と判断する。

[注3] 急性白血病、再生不良貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、骨髄線維症、特発性血小板減少性紫斑病、巨赤芽球性貧血、癌(骨髄転移)、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、脾機能亢進症(肝硬変、門脈圧亢進症など)、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群、感染症、薬剤起因性血液障害

[注4] 良好:正常核型, -Y, del(5q), del(20q)、不良:3個以上の異常を持つ複雑型・7番染色体異常、中間:他のすべて。

[注5] 図は【参考文献】[4]のものを改変。

[注6] 低リスクMDS患者の10~50%に血液学的改善効果が見られている。

[注7] 以下、AMLへの移行(15%)、失血(13%)と続く。

[注8] これは中国、すなわち抗酸菌感染の多発地域のデータであるため有効性の判断は難しいが、結核再興地域にて説明困難な発熱・肺炎・リンパ節腫脹が見られた場合は特に考慮する。

[注9] カンジダ性脾膿瘍を疑う場合には十分量のアムホテリシンBも勧められるが、薬剤性の発熱を伴うことが多いので、治療中は体温の上下に一喜一憂しない。

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