指数関数・対数関数・べき乗は、それぞれ複素数に拡張して考えることができます。
ただし、複素指数関数が周期関数となるため、指数と対数の関係は実数のときとは異なります。
この記事では、複素指数関数・複素対数関数・複素数乗を定義し、その性質と微分公式について解説します。
複素数のあらわし方
以下、特に断りなく、複素数 \(z\) を2通りの方法であらわします。
実数係数形式
実数 \(x, y\) について
$$z=x+iy$$
とおき、 \(z\) の実部を \(x\) 、虚部を \(y\) であらわします。
極形式
複素数平面における \(z\) の位置を、中心からの距離(動径) \(r\) と実軸との角度(偏角) \(\theta\) をもちいて
$$z=re^{i\theta}=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$$
とあらわします。
指数関数
指数関数の定義
複素数の指数関数は、次の形で定義されます。
$$f(z)=e^z=e^{x+iy}=e^xe^{iy}$$
$$=e^x(\cos{y}+i\sin{y})\tag{1}$$
周期関数としての性質
定義式の形状より、指数関数は \(y\) 方向(虚軸方向)について周期関数となっていることがわかります。
すなわち
$$f(z)=f(z+2\pi i)$$
$$e^z=e^{z+2\pi i}$$
が成り立ちます。
指数関数の微分公式
微分は複素平面全体において定義されます。
実関数と同様に、微分しても形は変わりません。
$$f'(z)=f(z)=e^z\tag{2}$$
以上より、指数関数は正則関数(=複素可微分関数)です。
対数関数
定義するときの注意
実関数において、対数関数は指数関数の1価の(1対1対応する)逆関数として定義できました。
つまり
$$y=e^x\Leftrightarrow x=\log{y}$$
が常に成り立ちます。
しかし、複素数の指数関数は周期関数となるため、
対数関数の複素数への拡張は多価関数(1対多対応)になります。
つまり
$$u=e^z=e^{z+2\pi i}=e^{z+4\pi i}=\cdots$$
が成り立つので、 \(u\) について逆関数を考えたときに、行き着く先が1つに限定できません。
対数関数の定義
極形式の両辺の対数をとることで、対数関数は以下のように定義されます。
$$\log{z}=\log{r}+i\theta\quad(z\neq 0)\tag{3}$$
定義式において、左辺の \(log\) は複素数に拡張した対数関数ですが、
右辺の \(log\) は正の実数に対する対数関数であるため、意味が異なるので注意が必要です。
偏角と対数関数の主値
複素数 \(z\) の偏角 \(\theta\) には \(2\pi\) の任意性があります。
これを
$$\theta=\arg{z}={\rm Arg}\ z+2n\pi\quad(n:整数)\tag{4}$$
という式で表現します。
ここで、 \({\rm Arg}\,z\) は偏角のうち \(-\pi\leq {\rm Arg}\,z<\pi\) をみたすもので、偏角の主値と呼ばれます。
つまり、 \(n=0\) のケースに相当します。
偏角の表現式 \((4)\) を式 \((3)\) に代入すると
$$\log{z}=\log{r}+i({\rm Arg}\ z+2n\pi)$$
となりますが、ここでも整数 \(n\) は任意の値を取れることから、 \(\log{z}\) は無限多価関数となります。
上の式で \(n=0\) となるときの値を対数関数の主値 \({\rm Log}\,z\) といい、以下のように書くことができます。
$${\rm Log}\,z=\log\,r+i{\rm Arg}\,z\tag{3*}$$
ここで、以下の性質が成り立ちます。
対数関数の連続性
偏角の主値の定義を \(-\pi\leq {\rm Arg}\ z<\pi\) としているとき、
\(\log{z}\) は負の実軸と原点で連続ではない。
連続性の証明
実部が正で、虚部が十分に小さい複素数 \(z_{1}, z_{2}\) は、
十分に小さい \(\delta>0, \epsilon>0\) を用いて
$$z_{1}=x+i\delta=xe^{i\epsilon}$$
$$z_{2}=x-i\delta=xe^{-i\epsilon}$$
と書けます( \(x>0\) )。
これは、 \(e^{i\theta}=\cos{\theta}+i\sin{\theta}\) であり、
\(\theta\) が十分小さい時、 \(\cos{\theta}\simeq 1,\sin{\theta}\simeq\theta\) であることから
$$xe^{i\epsilon}\simeq x(1+i\epsilon)=x+ix\epsilon$$
となるため、
$$x\epsilon=\delta$$
とおくことで導出できます。
よって \(z_{1}, z_{2}\) について対数関数の主値を取り、 \(\epsilon\to +0(\delta\to + 0)\) とすると
$${\rm Log}\,z_{1}=\log{x}+i\epsilon\to\log{x}$$
$${\rm Log}\,z_{2}=\log{x}-i\epsilon\to\log{x}$$
であり、正の実軸では連続になります。
同様に、実部が負の複素数 \(z_{3}, z_{4}\) は
$$z_{3}=-x+i\delta=xe^{i(\pi-\epsilon)}$$
$$z_{4}=-x-i\delta=xe^{i(-\pi+\epsilon)}$$
と書けます( \(x>0\) )。
対数関数の主値を取り、 \(\epsilon\to +0\) とすると
$${\rm Log}\,z_{3}=\log{x}+i(\pi-\epsilon)\to\log{x}+\pi i$$
$${\rm Log}\, z_{4}=\log{x}-i(\pi-\epsilon)\to\log{x}-\pi i$$
となり、負の実軸に近づくとき、極限値が異なります。
よって、対数関数は負の実軸において不連続です。
不連続性の検証は、原点でも同様に行うことができます。
ただし、この性質は偏角の主値 \({\rm Arg}\,z\) の取り方に依存するため、注意が必要です。
その他の一般的な性質
複素数の対数関数は多価関数であるため、
実数の対数関数において見られた性質が、必ずしも成立しないことに注意してください。
- \(e^{\log{z}}=z\)
- \(\log{e^z}\neq z\)
- \(\log{z_{1}z_{2}}=\log{z_{1}}+\log{z_{2}}\)
- \({\rm Log}\,{z_{1}z_{2}}\neq{\rm Log}\,z_{1}+\rm Log\,z_{2}\)
- \(\log{z^n}\neq n\log{z}\)
微分公式
$$({\rm Log}\,z)'=\frac{1}{z}$$
$$(\log{z})'=\frac{1}{z}$$
なお、対数関数の主値 \({\rm Log}\,z\) は、領域 \(|z|>0,\,-\pi\leq{\rm Arg}\,z<\pi\) において1価かつ正則です。
微分公式の証明
\({\rm Log}\,z\) が1価であることは明らか。
領域 \(|z|>0,\,-\pi\leq{\rm Arg}\,z<\pi\) において \((3*)\) 式より、
\(u(r,\theta)=\log{r},\,v(r,\theta)={\rm Arg}\,z=\theta\) とします。
ここで、 \(z\) の偏角 \(\theta\) は主値に固定しました。
\(u,v\) を \(r,\theta\) で偏微分すると
$$\frac{\partial u}{\partial r}=\frac{1}{r},\, \frac{\partial u}{\partial \theta}=0$$
$$\frac{\partial v}{\partial r}=0,\, \frac{\partial v}{\partial \theta}=1$$
より、コーシー=リーマン方程式
$$\frac{\partial u}{\partial r}=\frac{1}{r}\frac{\partial v}{\partial \theta}$$
$$\frac{\partial v}{\partial r}=-\frac{1}{r}\frac{\partial u}{\partial \theta}$$
が成立するので、 \({\rm Log}\,z\) は領域 \(|z|>0,\,-\pi\leq{\rm Arg}\,z<\pi\) において微分可能、すなわち正則です。
よって、複素関数の極限が複素平面上の経路によらないことに注意して、
偏角を \(\theta_{0}\) に固定し、動径 \(r\) を変化させることで \(z_{0}=r_{0}e^{i\theta_{0}}\) における微分を考えます。
$$z=re^{i\theta_{0}}$$
とおくと
$$\Delta z=z-z_{0}=(r-r_{0})e^{i\theta_{0}}=e^{i\theta_{0}}\Delta r$$
となるので
$$({\rm Log}\,z)'=\lim_{\Delta r \to 0}\frac{1}{\Delta re^{i\theta_{0}}}[u(r_{0}+\Delta r,\theta_{0})+iv(r_{0}+\Delta r,\theta_{0}) -u(r_{0},\theta_{0})-iv(r_{0},\theta_{0})]$$
$$=(\frac{\partial u(r_{0},\theta_{0})}{\partial r}+i\frac{\partial v(r_{0},\theta_{0})}{\partial r})e^{-i\theta_{0}}$$
$$=(\frac{1}{r}+0)e^{-i\theta_{0}}=\frac{1}{z}$$
が成り立ちます。
また、
$$z=\exp{(\log{z})}$$
より、 \(u=\log{z}\) とおいて両辺を \(z\) で微分すると
$$1=\frac{d}{dz}\exp{(u)}$$
$$1=\frac{d}{du}\exp{(u)}\frac{du}{dz}$$
$$1=\exp{(u)}\cdot\frac{du}{dz}$$
すなわち
$$\frac{d}{dz}\log{z}=\frac{1}{\exp{(u)}}=\frac{1}{z}$$
が導けます。
べき乗
定義
複素数の複素数乗を次のように定義します。
$$z^c=\exp{(c\log{z})}\quad(c:複素数)$$
微分公式
べき乗の例について、 \(z^c,c^z,z^z\) を考えます。
これらを \(z\) で微分すると、以下の公式が成り立ちます。
$$(z^c)'=cz^{c-1}$$
$$(c^z)'=c^z\log{c}$$
$$(z^z)'=z^z(1+\log{z})$$
微分公式の証明
\(u=c\log{z}\) とおくと
$$\frac{d}{dz}z^c=\frac{d}{dz}\exp{(u)}$$
$$=\frac{d}{du}\exp{(u)}\frac{du}{dz}$$
$$=\exp{(u)}\cdot\frac{c}{z}=z^c\cdot\frac{c}{z}=cz^{c-1}$$
\(v=z\log{c}\) とおくと
$$\frac{d}{dz}c^z=\frac{d}{dz}\exp{(v)}$$
$$=\frac{d}{dv}\exp{(v)}\frac{dv}{dz}$$
$$=\exp{(v)}\cdot\log{c}=c^z\log{c}$$
\(w=z\log{z}\) とおくと
$$\frac{d}{dz}z^z=\frac{d}{dz}\exp{(w)}$$
$$=\frac{d}{dw}\exp{(w)}\frac{dw}{dz}$$
$$=\exp{(w)}(z\cdot\frac{1}{z}+1\cdot\log{z})=z^z(1+\log{z})$$
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