多重積分の独立した変数が動径としてまとめられるとき、変数を極座標に変換することで、計算を簡略化することができます。
具体的には、複数の変数による積分が、1変数の積分と単位球の表面積の積に変換できます。
この記事では、変数を極座標に変換する方法と面素を用いて変数をまとめる方法を解説し、最後に極座標変換の性質を応用して、多次元単位球の表面積を導出します。
多重積分の極座標変換
多重積分を1変数の積分へ簡略化できる
\(M\) 個の独立した変数 \(x_1,x_2,\cdots,x_M\) についての多重積分
$$\int\int\cdots\int f(x_1,x_2,\cdots,x_M)dx_1 dx_2\cdots dx_M$$
について、被積分関数 \(f(x_1,x_2,\cdots,x_M)\) 内の変数すべてが
$$r^2=x_1^2+x_2^2\cdots x_M^2$$
の形でまとめられるとき、つまり
$$f(x_1,x_2,\cdots,x_M)=f(x_1^2+x_2^2\cdots x_M^2)=f(r^2)=f(r)$$
と書けるとき、変数を極座標変換すると計算を簡略化することができます。
具体的には、 \(M\) 個の変数についての積分
$$\int\int\cdots\int f(x_1,x_2,\cdots,x_M)dx_1 dx_2\cdots dx_M$$
を、「1個の変数についての積分」と「単位球の面積」の積
$$\int f(r)r^{M-1}dr\times S_{1, M}$$
にまで単純化できます。
ここで単位球とは、半径が1の \(M\) 次元球を意味します。
変数変換の流れ
多重積分の極座標変換では、以下のような流れで積分変数を変換します。
- \(M\) 次元変数 \(dx_1,dx_2,\cdots,dx_M\)
- \(1\) 次元の動径 \(dr\) と \(M-1\) 次元の回転角 \(d\theta_1,\cdots,d\theta_{M-1}\)
- \(1\) 次元の動径 \(dr\) と \(1\) 次元の面素 \(dS_{1,M}\)
より具体的には、以下のような変換を行います。
$$I=\int\int\cdots\int f(x_1,x_2,\cdots,x_M)dx_1 dx_2\cdots dx_M$$
とおきます。極座標を用いると
$$I=\int\int\cdots\int f(r)h_1(r)h_2(\theta_1,\cdots,\theta_{M-1})drd\theta_1\cdots d\theta_{M-1}$$
$$=\int\int\cdots\int g(r)h_2(\theta_1,\cdots,\theta_{M-1})drd\theta_1\cdots d\theta_{M-1}$$
の形で変数変換されます。途中、 \(g(r)=f(r)h_1(r)\) と 動径 \(r\) にのみ依存する関数をまとめました。
回転角に対応する変数は、のちに示す理由によって
$$dS_{1,M}=h_2(\theta_1,\cdots,\theta_{M-1})d\theta_1\cdots d\theta_{M-1}$$
と書き換えることができます。
ここで、 \(dS_{1,M}\) は面素と呼ばれ、 \(M\) 次元の単位球面上での面積の微小変化をあらわします。
また、面素を全区間で積分すると、 \(M\) 次元の単位球の表面積に等しくなります。
以上より、 \(M\) 変数の多重積分は
$$I=\int\int g(r)drdS_{1,M}$$
$$=\int g(r)dr\int dS_{1,M}$$
$$=\int g(r)dr\times S_{1,M}$$
と変換できることがわかります。
以下、
- 直交座標→極座標の変換を行う方法
- 面素 \(dS_{1,M}\) の導出
について具体的に考え、最後に \(M\) 次元の単位球の表面積の一般式を導出します。
直交座標→極座標の変換
3次元直交座標→3次元極座標の変換
\(M\) 次元直交座標→ \(M\) 次元極座標の変換を考える前に、
3次元の \((x_1,x_2,x_3)\to(r,\theta_1,\theta_2)\) という変換について、図を用いながらイメージを養います。
一般に、 \(x_1,x_2,x_3\) は以下の関係式にしたがって極座標に変換されます。
$$x_1 = r\cos{\theta_2}\sin{\theta_1}$$
$$x_2 = r\sin{\theta_2}\sin{\theta_1}$$
$$x_3 = r\cos{\theta_1}$$
この関係式を用いて、例えば \(r=3\) に固定して \(\theta_1,\theta_2\) を \([0,\frac{\pi}{2}]\) の範囲で動かすと、半径 \(3\) の \(\frac{1}{8}\) 球を得ることができます。
\(X=x_1,Y=x_2,Z=x_3\) とおいて図示したものが下図です。
(作図に用いたPythonコードは、記事末の参考記事にまとめています)
ここで、3次元直交座標において \(dx_1dx_2dx_3\) で体積を表すことができた微小領域(直方体)が、3次元極座標ではどのように表すことができるのかについて考えます。
3次元極座標における微小領域は、各変数の値を微小量 \(dr,d\theta_1,d\theta_2\) だけ動かすことによって表現することができるので、以下の緑色の空間として図示されます。
この図において、
- \(r\) :球の半径の方向
- \(\theta_1\) : \(XY\) 平面に垂直な平面上での回転
- \(\theta_2\) : \(XY\) 平面に平行な平面上での回転
という関係があります。
ここで、上図の緑で示した微小領域において、薄青の球に接している面をこの微小領域の「底面」と呼ぶことにします。
このとき、微小領域の高さに相当するのは \(dr\) であることがわかります。
次に、 \(\theta_1\) 方向の回転を赤線で図示します。
上図によると、この方向の底面の辺の長さは、弧度法の定義より \(rd\theta_1\) と表せます。
最後に \(\theta_2\) 方向の回転を図示すると下図の青線のようになります。
このとき、 \(\theta_2\) の回転円上の半径(青)は、球の半径(赤)との関係から、 \(r\sin{\theta_1}\) とあらわせます。
よって、この方向の底面の辺の長さは \(r\sin{\theta_1}\cdot d\theta_2\) となります。
以上より、極座標における微小領域の体積は
$$dr\cdot rd\theta_1 \cdot r\sin{\theta_1}d\theta_2 = r^2\sin{\theta_1}drd\theta_1d\theta_2$$
と書けます。
したがって
$$dx_1dx_2dx_3 = r^2\sin{\theta_1}drd\theta_1d\theta_2$$
が成り立ちます。
M次元直交座標→M次元極座標の変換
3次元直交座標→3次元極座標の変換において、微小領域の底面の各辺の長さは
$$\theta_1方向の辺 = rd\theta_1$$
$$\theta_2方向の辺 = r\sin{\theta_1}d\theta_2$$
とあらわせました。
この議論を \(M\) 次元極座標にも適用します。
3次元の場合は、微小領域を高さ \(dr\) と2次元の底面に分解して考えました。
これにしたがい、 \(M\) 次元の微小領域も、高さ \(dr\) と \(M-1\) 次元の底面に分解して考えます。
すると、 \(M\) 次元極座標における微小領域の底面の各辺の長さは
$$\theta_1方向の辺 = rd\theta_1$$
$$\theta_2方向の辺 = r\sin{\theta_1}d\theta_2$$
$$\theta_3方向の辺 = r\sin{\theta_1}\sin{\theta_2}d\theta_3$$
$$\vdots$$
$$\theta_{M-1}方向の辺 = r\sin{\theta_1}\sin{\theta_2}\cdots\sin{\theta_{M-2}}d\theta_{M-1}$$
と書けます。
以上より、微小領域の体積は
$$r^{M-1}(\prod_{i=1}^{M-1}\sin{\theta_i}^{M-i-1})drd\theta_1d\theta_2 \cdots d\theta_{M-1}\tag{1}$$
であらわされます。
したがって
$$dx_1dx_2dx_3 \cdots dx_M = r^{M-1}(\prod_{i=1}^{M-1}\sin{\theta_i}^{M-i-1})drd\theta_1d\theta_2 \cdots d\theta_{M-1} \tag{2}$$
と変換できることがわかります。
M次元単位球の面素
式 \((1)\) から \(dr\) を除くと、 \(M\) 次元の微小領域の底面は
$$r^{M-1}(\prod_{i=1}^{M-1}\sin{\theta_i}^{M-i-1})d\theta_1d\theta_2 \cdots d\theta_{M-1}$$
と書けます。
さらに \(r=1\) を代入すると
$$(\prod_{i=1}^{M-1}\sin{\theta_i}^{M-i-1})d\theta_1d\theta_2 \cdots d\theta_{M-1}$$
となりますが、これは \(M\) 次元の単位球面における微小面積=面素 \(dS_{1,M}\) に相当します。
これを式 \((2)\) に代入すると
$$dx_1dx_2dx_3 \cdots dx_M = r^{M-1}drdS_{1,M}$$
が成り立ちます。
以上より、 \(M\) 変数の多重積分は
$$\int\int\cdots\int f(x_1,x_2,\cdots,x_M)dx_1 dx_2\cdots dx_M=\int\int f(r)r^{M-1}drdS_{1,M}$$
$$=\int f(r)r^{M-1}dr\int dS_{1,M}=\int f(r)r^{M-1}dr\times S_{1,M}\tag{3}$$
と変換できることがわかります。
M次元単位球の表面積
最後に、 \(M\) 次元の面素 \(dS_{1,M}\) を全区間で積分して得られる単位球の表面積 \(S_{1,M}\) の一般式を導出します。
通常、式 \((3)\) によって多重積分を変換し、単位球の表面積を用いて値を求めるのですが、
今回はその逆で、値がすでにわかっている多重積分を式 \((3)\) で変換し、単位球の表面積を求めます。
導出には、標準正規分布
$$\mathcal{N}(x|0, 1)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{x^2}{2}\right)$$
を用います。
独立の正規分布にしたがう \(M\) 個の確率変数 \(x_m\sim p(x_m)=\mathcal{N}(x|0, 1)\) の同時分布は
$$p(x_1)p(x_2)\cdots p(x_M)=\frac{1}{(2\pi)^{\frac{M}{2}}}\exp\left(-\frac{x_1^2+x_2^2+\cdots+x_M^2}{2}\right)$$
という確率密度関数で表現できます。
規格化条件より、確率密度関数を全区間で積分すると1になるので
$$\int\int\cdots\int\frac{1}{(2\pi)^{\frac{M}{2}}}\exp\left(-\frac{x_1^2+x_2^2+\cdots+x_M^2}{2}\right)dx_1dx_2\cdots dx_M=1$$
が成り立ちます。
左辺を極座標に変換すると、動径 \(r\) の積分区間は \([0,\infty)\) なので
$$\int_0^\infty \frac{1}{(2\pi)^{\frac{M}{2}}}\exp\left(-\frac{r^2}{2}\right)r^{M-1}dr\times S_{1,M}=1$$
となりますが、これをのちの変数変換に備えて
$$\frac{1}{2\pi^\frac{M}{2}}\int_0^\infty \left(\frac{r^2}{2}\right)^{\frac{M}{2}-1}\exp\left(-\frac{r^2}{2}\right)rdr\times S_{1,M}=1$$
としておきます。
\(t=\frac{r^2}{2}\) の変換を行うと、 \(dt=rdr\) より
$$\frac{1}{2\pi^\frac{M}{2}}\int_0^\infty t^{\frac{M}{2}-1}e^{-t}dt\times S_{1,M}=1$$
と書けます。
ここで、ガンマ関数
$$\Gamma(z) = \int_{0}^{\infty}t^{z-1}e^{-t}dt$$
を代入すると、
$$\frac{1}{2\pi^\frac{M}{2}}\Gamma(\frac{M}{2})\times S_{1,M}=1$$
$$S_{1,M}=\frac{2\pi^\frac{M}{2}}{\Gamma(\frac{M}{2})}$$
より、 \(M\) 次元空間における単位球の表面積の公式が得られます。
なお、単位球ではなく半径 \(r\) の球の表面積は
$$S_{1,M}(r) = \frac{2\pi^{\frac{M}{2}}r^{M-1}}{\Gamma(\frac{M}{2})}$$
とあらわすことができます。
参考記事
この記事では、 \(M\) 次元空間における直交座標→極座標の変換の導出をやや雑な帰納的手法に基づいて行いました。
より正確な座標変換公式の証明については、以下の記事が詳しいです。
また、この記事で使用した画像を作成するためのPythonコードは、以下の記事にまとめています。
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